神の選択 1
「じゅ……殉教? 何を言っているんだ……」
殉教……それってつまり……死ぬってことか?
イリアが……死ぬ?
「ええ。聖女イリアが死ねば、ワタクシがこの世界で唯一の聖女になれる……当たり前のことですわ」
「お前……本気で言ってんのか?」
俺がそう言うと、タルペイアは邪悪な笑みを浮かべる。
「はい。行って確認してみてください。もうあの牢屋には、誰もいませんよ?」
そう言うタルペイアの目は、本気だった。嘘を言っている顔には見えない。
俺はタルペイアを睨みつけたまま、ゆっくりと動き出した。
しばらくは足早に歩いていたが、そのまま全力疾走で大聖堂に向かっていった。
大聖堂の中に入り、そのまま牢屋から連れて来られた道を逆走する。
そして、牢屋が見えてきた。
「イリア!」
俺は大声で叫ぶ。しかし、鉄格子の先にイリアはいなかった。
「イリアなら、この街の大広場に連れて行かれたよ」
と、背後からウェスタの声が聞こえて来た。
「お前は……何をしたいんだよ……」
自然と拳を握る手に力が入る。
「何って……僕はこの世界をニト君に言われた通りに作っただけさ。そして、ニト君が見たいもの見せてあげている……それだけ」
「……ウェスタぁ!」
俺は思わず怒鳴って振り返った。しかし、ウェスタは平然とした顔で俺を見ている。
「怒っているのかい? 誤魔化さないでよ。君は……こういう光景が見たかったんだろう?」
「はぁ? 何を言っているんだ……」
「だって、君は転生する前思っていたはずだ。世界が憎い、そこに住む人たちが憎い……自分を見捨てた世界に復讐したい……だろう?」
「それは……転生する前の話だ」
「違うよ。転生した直後だよ。世界が作れるとならば、君はそこで自由にしたいと思った。自分の思った通りに。自分が見たいものだけを見て、見たくないものは見ない……そうだろう?」
「……俺はイリアが悲しむ顔や苦しむ顔は見たくない! それは俺自身が間違いなく思っていることだ!」
俺がそう叫ぶと、ウェスタは納得したようにポンと掌を叩いた。
「なるほど。イリアと旅をする間にそんな感情が芽生えたんだ。それは良い事だ。だけど……ちょっと遅かったねぇ」
そういってウェスタはニッコリと微笑む。それはまさしく悪意を込めたような笑顔だった。
「何も知らなければよかったのに……成長することもなければ、君はきっと、僕が作った世界に満足してくれただろうになぁ」
「そんなことはどうでもいい! どうすればいい!? イリアは救うには……どうすればいいんだ!?」
「はぁ……なんだい? 僕を悪者呼ばわりするのに、僕に頼るのかい? やれやれ、身勝手な創造神様だ……簡単さ。僕に一言、言えばいい」
そういってウェスタは紅い瞳を輝かせる。その瞳は強く燃え上がって、俺のことを見ていた。
俺はまるで炎に包まれたような、そんな不思議な感覚だった。
「……な……何を言えばいいんだ?」
「……イリア以外の人間を、僕の炎で焼いてくれ、、と」