嫉妬する聖女 7
「う、ウェスタ……」
「やぁ、ニト君。久しぶり……ではないね」
ウェスタはいつもの調子で俺にそう言ってくる。
「お前……一体どういうつもりだ?」
俺がそう聞いても、ウェスタは相変わらずの様子でニヤニヤしているだけである。
「どういうつもりも何も……僕は女神だからね。聖女がいる所には現れる存在なのさ」
「……ちょっと待て。タルペイア。アンタにはコイツの姿が見えるのか?」
俺が訊ねると、タルペイアは何を言っているのかと言わんばかりの顔で俺を見てくる。
「当たり前です。聖女たるもの、神の姿も見ることができないようでは、聖女とはいえませんからね……もっとも、女神が私に姿をお見せしたのは、ごく最近のことですが」
タルペイアには見える……イリアには声しか聞こえないのに。
なぜだ? そもそも、このタルペイアという女は一体なんなのだ?
どうして俺のことを創造神だと知っている。それになぜウェスタの姿が見える?
「動揺しているね。ニト君」
嬉しそうにウェスタはそう言う。俺は思わずウェスタを睨みつけてしまった。
「お前……そもそも、聖女はイリアだけじゃなかったのか?」
「そうだね。確かに、ウェスタの聖女は現在、彼女1人だ。でも前に言っただろう? ウェスタの聖女になるにはそれなりの準備が必要だ、って」
確かにウェスタはそう言っていた。神の声を聞くことが出来るか、聖女としてふさわしいかどうかの判断をウェスタ教会が行うのだ、と。
「ああ……イリアはそれをクリアして聖女になったんだろ? だったら、この世界にはイリアしか聖女は……」
俺はそこまで言ってから、とんでもないことに気付いた。
待て……ウェスタはこうも言っていた。多くの少女たちの中から1人の聖女を選び出すのだ、と。
その中にはイリアのように聖女として選ばれた存在がいるならば……選ばれなかった存在だっているはずだ。
俺は今一度タルペイアのことを見る。タルペイアはウェスタと同じように、邪悪に微笑んでいた。
「ええ。そうです。私は女神ウェスタに選ばれなかった聖女ですよ。創造神ニト」
ニンマリと微笑みながら、タルペイアは俺に向かってそう言ったのだった。