嫉妬する聖女 5
「いかがでしたか? ウェスタの聖女?」
演説が終わり、大部分の群衆が大聖堂から去った後で、タルペイアは俺とイリアに話しかけてきた。
「タルペイア殿……貴方は正真正銘の聖女のようだ」
目を輝かせてイリアはタルペイアにそう言う。
「ええ、そうです。ウェスタの聖女も同じことができるのでしょう?」
「え……あ、いや、私はああいうことは……」
そう言うとタルペイアはわざとらしく呆れたように大きくため息をつく。
「そうですか……やはり、ウェスタ教では人々を救うということはしないのですね……」
「そ、そんなことはない! ウェスタ教では救いは女神から与えられるもので……自ら与えるものではないから……」
イリアがそう言うと、タルペイアはまるで侮蔑した様子で、イリアを見る。
「それは詭弁です。ウェスタ教はそういって、神の奇跡を起こせないから、そういってごまかしをしているだけなのです」
真正面から否定を食らってイリアは悲しそうに俯いてしまった。
さすがに見ているのが可哀想に思えてきてしまったので、俺は助け舟を出すことにした。
「なぁ、タルペイア。今お前が奇跡で悩みを解決した人たち、初めて会ったのか?」
俺の質問にタルペイアは動じることもなく、首を横にふる。
「いいえ、彼らはニト教の信者です。大聖堂に何度も悩みを打ち明けにきていました。ですから、ワタクシとは親しい間柄です」
「なるほど。じゃあ、アイツラもさっきみたいに、袋にそれこそ、大量の金を入れてきたわけか」
俺がそう言うと、タルペイアは嫌そうな顔で俺を見る。やはり、そこはあまり突っ込まれたくない部分だったようである。
「……我らが創造主ニト。あれはアナタへの供物です。まるでワタクシが……金銭をもらっているような言い方はやめて下さい」
「なんだ? 事実をありのままに言ってはいけないのか?」
俺がそう言うとタルペイアはキッと俺を睨んだ。その視線は、とても聖女とは思えないほどの鋭いものだった。
「……いいでしょう。ワタクシがどれほどこのアルクスの街にとって必要とされている聖女か、お見せいたしましょう」
タルペイアはそう言って、俺とイリアに向けて妖しげな笑みを浮かべたのだった。




