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嫉妬する聖女 1

「ふわぁ……おはよう、ニト」


 次の朝、起きてきたイリアは寝ぼけ眼で俺に挨拶してきた。


「ああ、おはよう。イリア」


「お前……もしかして寝なかったのか?」


「え……? あ、いや……まぁな」


 心配そうな顔でイリアは俺を見る。


 俺自身でも不思議だった。一切寝ていないというのに、全く疲れていない。


 もはや睡眠さえも俺には必要なくなってしまっているのではないか、とさえ思えてきた。


「ダメだぞ。ちゃんと寝なくては……眠れなかったのか?」


「え……そういうわけじゃないんだが……」


「だったら、しっかり寝るんだ。もし寝坊しても私が起こしてやる。だから、明日からはちゃんと寝るんだぞ? 次の巡礼地まではもう少し距離があるからな」


 イリアはまるで母親のように俺にそう言った。


 しかし、そんなイリアを見ているとなんだか心が温まるというか……先程のウェスタとの会話で感じた恐怖で冷め切った心が暖められていくようだった。


「……ありがとう、イリア」


「そうだ。お前は私の巡礼の旅の重要な同伴者……なっ! お、お前……なんで泣いているんだ?」


「え?」


 俺は言われて気付いたが……頬を涙が伝っていくのに気付いた。


「あ……ホントだ」


「まったく……お前は泣き虫だな。いつぞやの森の中でも泣いていたじゃないか」


 呆れたようにイリアはそう言う。


 そうだ……俺はイリアを救いたいんだ……ウェスタが何を企んでいようと、俺は自分が作った世界の聖女として存在するこの純粋な少女を守りたい……


 それは神とか人間とかそういう立場の関係から来る感情ではなくて、純粋な俺自身の気持ちだった。


「……すまん。イリア」


「だから、謝るな。ほら、行くぞ」


 イリアの言葉に元気づけられ、俺は立ち上がった。


 それから俺とイリアはしばらく歩き続けた。


 相変わらず俺は疲れを感じることもなく、イリアの旅を邪魔することはなかった。


 イリアはたまに疲れていることは会ったが、それでも、自身の聖女としての使命をはたそうとしているようで、休むこと無く、次の巡礼地へと向かっていた。


「お、見てきたぞ」


 ふと、イリアが前方に見えてきた街を指さし、イリアはそう言った。


「あれが……次の巡礼地か?」


「ああ。さぁ、もうすぐだ」


 前方の街はそれなりに発展しているらしく、大きな街だった。


「あの街はアルクス……ニト教の大聖堂のある街だ」


「え? 知っているのか?」


 意外だった。今まで外の世界のことをほとんど知らなかったイリアが、前方にある街の名前を口にしたからである。


「ああ……あの街にはニトの聖女がいるという……今回の巡礼でもっとも重要な改宗対象がいるのだ」


「え? ニトの……聖女?」


「そうだ。私がウェスタの聖女であるように、ニト教にも聖女がいるのだ」


 イリアは少し緊張しているようだった。


 考えてみれば、イリアの改宗はほとんど成功していない。


 それなのに、今会おうとしているのは、ニト教の聖女……


 同じ聖女を改宗させなければいけないというのだ。それは、非常に難しいことなのではないかと、俺でさえ思う。


「……大丈夫か? イリア」


「え? あ、ああ……私一人だったら不安だったろう。だが……お前がいるからな。なんとかなりそうな気がする」


 無理に笑顔を作るイリア。俺はなんだか不安な気持ちになった。


「ふふっ。でも、気を付けないと、イリア、すぐ壊れちゃうよ?」


 と、背後から聞こえて来た声に俺は振り返る。


 誰もいない……ウェスタの声だった。


「ニト。何か言ったか?」


「え? あ、いや何も」


「そうか。誰かの声が聞こえたのだが……女神が私に励ましの言葉をくれたのかもしれないな」


 嬉しそうにそういうイリア。違う……ウェスタはそんなヤツじゃない。


「……さて、行くぞ」


 イリアは意気込んでそのままアルクスの街へと歩みを進めた。

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