神への不信
「……ウェスタ」
「どう? イリアは純粋だから接しやすいでしょう?」
いつもの調子で俺にそう言ってくるウェスタ。
その赤い瞳は何を考えているのかわからない。見ているとこちらがどうにも不安になってくる。
「……お前、なんであんなことしたんだ?」
「あんなこと? なにそれ?」
「……この前の鎧騎士だ。いきなり炎に包まれて……あんなことができるのはお前だけだろう?」
すると、ウェスタは悪びれる様子もなく澄ました顔で俺を見る。
「だって、危なかったじゃないか。ニト君とイリアを守るためさ」
「……だけど、殺すことはなかったんじゃないのか?」
「そう? 彼は人でないものになりかかっていたからね。この世界にふさわしくない存在は神様として排除しないと」
淡々とそう言うウェスタ。やはりコイツはどこかおかしい……というか、あまりにも冷たすぎるのだ。
コイツと話しているとなんというか虫と話しているような……そんな感覚さえ覚える。
「……そうやって、イリアにも教えこんだのか?」
「え? イリアに?」
「ああ。イリアはお前の声が聞こえていた……イリアが自分のことを聖女だと思うようになったのは……お前のせいでもあるんじゃないのか?」
ウェスタはジッと俺のことを見る。
俺はその炎のような瞳が自分のことをジッと見続けていることに、少し恐怖を覚えた。
「うん。言ったさ。イリアにはずっと聖女だって言った。だって、彼女は聖女なんだから当たり前だろ?」
「……それだけか? ホントにそれだけなのか?」
「うん。それだけ。あとは、聖女としての仕事をきちんと果たそうね、って。他には特に言ってないよ」
無邪気にそう微笑むウェスタ。嘘はついていない……だが、コイツは俺に隠し事をする。「聞かれなかったから」と言って大事な情報を隠すのだ。
「……わかった。信じよう」
「え? どうしたのさ、ニト君。まるで僕のことを信用していないみたいじゃないか」
俺はそう言われてすぐには返事できなかった。そして、しばらく間を置いてから俺はウェスタを見る。
「……悪い。お前のことは信用できない」
俺がそう言うとウェスタはまたしてもジッと俺のことを見た。そして、なぜか嬉しそうにニンマリと微笑む。
「ふふっ。随分と今更だね、ニト君。君は初めて会った時、微塵も僕のことを疑わなかった……それなのに、今は僕に不信感を覚えている。これは大きな成長だよ」
「……お前、何言ってんだ?」
なぜかウェスタは心底嬉しそうだった。俺にはその様が酷く不気味に思えた。
「まぁまぁ。いいじゃないか。人を信じ過ぎるのは良くないしね。そうなると、1つ疑問が生まれてくるよね……僕って、ホントにいい神様なのかな?」
そういって狂気に孕んだ笑みを浮かべて、ウェスタは瞬時にいなくなった。
俺はその時、なんだかとんでもない事が起きようとしているのではないかと、直感的に思った。