神と人と
それから、俺とウェスタはしばらく歩き続けた。
ウェスタの言う通り、神である俺は疲れや喉の乾き、空腹も感じなかった。
そして、睡眠さえも取る必要も感じない。
果てはイリアに対して、人間的に欲情さえ感じなくなった。
寝ているイリアの寝込みを襲おうとか、そういうのは一切考えなく成ってしまったのである。
ここにきて今更であるが、自分が人間ではなくなってしまったのだと、改めて実感できた。
イリアの方は、時折疲れを見せていたが、順調に旅を続けていく。
俺が疲れを見せないことにもあまり不信感を表すこと無く、俺と一緒にいつづけた。
そして、鎧騎士のいた城から離れて、一週間ほど経った時のことであった。
その日の夜、いつものように俺とイリアは野宿していた。
「……なぁ、ニト」
と、ランタンを見つめていたイリアが俺にふと話しかけてきた。
「ん? なんだ?」
「……お前、辛くないのか? この旅」
不思議そうな調子でイリアは俺に訊ねてくる。
俺としてもどう答えれば良いのか少し困ってしまった。
「そうだなぁ……俺は別にイリアについて着ているだけだし……辛くはないかなぁ」
俺がそう言うと、イリアはキョトンとした様子で俺を見る。そして、なぜか少し嬉しそうに微笑んだ。
「な、なんだよ……」
「……不思議なヤツだと思ったんだ。別に付いてくる義務なんてないのに……お前はずっと私に付いてくる……私のことを気味悪がる様子もない」
「え? 気味悪がる?」
すると、イリアは目を細めて、煌々と燃えているランタンの炎を見る。
「……女神の声が聞こえる聖女……そういえば聞こえは良いが、その実は、人が聞こえない声が聞こえる不気味な存在だ。皆私を気味悪がっていた。神祇官様でさえも……」
そして、イリアは悲しそうな顔をしたあとで、無理に微笑むように俺を見る。
「……だが、お前は違う。私に対して聖女としてではなく、普通の人間として接してくれる……だから、私はお前のことを不思議なやつだと思うのだ」
……違う。
イリアがこんな苦しい思いをしているのは俺のせいだ……それなのに……
「ああ、すまない。変な話をしてしまった……気にしないでくれ」
先程までの話を誤魔化すように、イリアはそのまま立ち上がった。
「……明日も早い。私はもう寝る」
そういってイリアはそのまま横になった。
程なくして小さな寝息を立ててイリアは寝てしまったようだった。
「ふふっ。大分信頼されたようだね。創造神様」
そして、聞こえて来た声。俺はゆっくりと振り返った。
そこには、邪悪な微笑みを湛えた白髪黒衣の女神が立っていたのだった。




