聖女の成長
鎧騎士の一件が終わった後、俺とイリアは城から少し離れた場所で野宿することにした。
ランタンの炎を見つめながら、俺もイリアも一言も言葉を交わさなかった。
「おい」
しかし、沈黙がしばらく経ってから、イリアの方が先に話しかけてきた。
「……なんだ?」
俺は少し間を置いてから、イリアに返事する。
「……お前は……本当は人間ではないのか?」
イリアは悲しそうにそう言った。俺はなんと返事したら良いかわからず、言葉に詰まる。
「怒らないし、馬鹿にもしない。お前が本当に知っていることを言ってくれ」
緑色の瞳が真剣に俺に訊ねてくる。その瞳は真剣に答えを求めているようだった。
「……俺は……創造神なんだ」
随分と迷ったが、言ってしまうことにした。イリアは何も言わず俺の事を見る。
俺は構わず先を続けることにした。
「俺とウェスタの2人でこの世界を創った……世界を作る力があったのはウェスタの方だ。俺はただ注文を言っただけ……だから、神を騙ることもおこがましいのかもしれない……」
俺はイリアの方を見る。イリアは黙ったままで俺のことを見ている。
「……世界に2つの宗教が存在してしまったのも、不幸な人間が多いのも……俺が適当な注文をつけたせいだ……イリア、お前には俺に文句を言う権利がある。なんでも言ってくれて……いいんだぞ?」
俺自身、なんだか変なことを言っているのはわかっていた。イリアに文句を言ってもらったところで、何も解決しない。
俺には世界をどうすることもできない。転生する前とまったく変わらない……
そう。俺は無力な神なのだ。
「……いや、文句はない。私は聖女だ。真実はどうあれ、世界を創造したと言っている男に、文句を言えるような存在ではない」
「え……な、なんで?」
俺は思わず聞き返す。しかし、イリアはフッと優しく微笑んだ。
「簡単だ。仮にこの世界が、お前が適当に注文をつけた創った世界であっても、私は聖女になれた……お前がこんな世界を作らなければ、私は聖女として存在することもできなかった。だから、私は私自身を私として構成したこの世界を創った主に、文句を言う権利などない、ということだ」
「イリア……お前……」
なんだかまるで聖人のようなことを言う……というところまで考えて、コイツはそもそも聖女という存在であることを俺は思い出した。
「だから、文句などない。もちろん、お前が言うことを完全には信じられない。しかし、先程の鎧騎士の件といい、あの森での出来事といい……お前が神に類する存在であるのかもしれないと、私は思っている」
「え……じゃあ、あの森にいた時から、俺が人間じゃないって思ってたの?」
「いや、確信はしていない。なんとなく、違う感じがしただけだ。それに、私は神の声を聞くことが出来る聖女……もし、お前が神ならば、私が真の聖女であることの証明になるからな」
イリアはそう言ってニッコリと笑った。俺はその時思った。
イリアは成長している。この巡礼を通して、確実に聖女として。
成長していないのは……転生しても変わらず無力のままの俺自身なのだ、と。