憤怒の騎士 12
「……あれ?」
しかし、俺とイリアは死んでいなかった。
「……どうなってんだ? おい、イリア?」
イリアに呼びかける。しかし、反応がない。
「あれ……なんだ。完全に止まってる……なんで?」
「そりゃあ、君が神様だからだよ」
聞こえて来たのはウェスタの声だった。俺は振り返る。
相変わらずの特徴的な黒い服装で、俺の背後にウェスタは立っていた。
「ウェスタ……これは一体……」
「言っただろ? 君は神様だ。神様なんだから死ぬわけがないじゃないか。神様が死んだら世界は終わりだからね。だから、君が死なないように世界が自動的に防衛本能を働かせたってことだよ。まぁ、動いたというか、止まったんだけど」
そう言うと、ウェスタは止まったままの鎧騎士を見上げて大きくため息をつく。
「やれやれ……イリアの話も聞かなかったのか。仕方ない。これは僕が処理しておこう」
そういってウェスタがパチンと指を鳴らすと、瞬時に鎧騎士の全身は真っ赤な炎に包まれた。
「あ……お、おい!」
「ん? ああ。仕方ないだろう? こうでもしなきゃイリアは殺されてしまうんだ。君だって、イリアが死ぬよりこの化け物が死んだほうがいいだろう?」
「そ、それは……でも、ソイツ、なんかワケありだったぞ?」
俺は先程鎧騎士が行った言葉を反芻する。
イリアが死んだのは、自分のせい……
それって……どういうことだ?
ウェスタの話では、ウェスタ教のせいで聖女イリアは殉教したのではないのか?
「まぁ、人それぞれわけありなんて当たり前だよ。だからって他人を傷つけていいって理由にはならない。そんな自分勝手が許されるのは神だけだよ」
ウェスタのゾッとするほど冷たい言葉に俺は違和感を覚えた。
思わずウェスタのことをジッと見てしまう。
「ん? どうしたんだい? ニト君」
「……神にだってそんな勝手は許されないだろ?」
俺がそう言うとウェスタはキョトンとした顔で俺を見た。そして、なぜかおかしくて仕方ないという風に腹を抱えて笑い出した。
「な、なんだよ! なんで笑うんだ!?」
「だって……あはは……自分の勝手でこの世界を創ったニト君がそんなことを言うものだから……」
目に貯めた涙を吹きながら、ウェスタはそういう。
……そうだ。こんな世界を創ったのは俺なのだ。世界が不安定なのも、イリアが苦しんでいるのも俺のせいじゃないか……
「……これでいいのか?」
「ああ。イリアの巡礼は結果ではない。巡礼をしたという事実が必要なんだ。これで次の巡礼地に行けるよ? 神様らしくイリアをキチンと導いてあげるといい」
そう言うとウェスタはなぜか何かを思い出したかのように、ポンと手を叩いた。
「そうそう。神様を殺せるとしたら……唯一同じ神様だからね。あまり僕を怒らせない方がいいよ?」
そういって無機質な笑みを浮かべて、ウェスタはまたしてもその場から姿を消したのだった。