憤怒の騎士 11
イリアの持ったランタンの光を頼りに、俺達は鎧騎士がいる部屋の前へと戻ってきた。
扉の前に立ち、俺とイリアは2人で見つめ合う。
「……作戦、なんてないよな?」
俺がそう言うとイリアは小さく頷いた。
「……私は聖女だ。人々に安寧をもたらす聖女……例え相手が化け物であっても、私はあくまで話し合いで解決するつもりだ」
話し合いが通用しそうな相手ではなかったが……イリアがそう言うならそうるしかない気がする。
俺は意を決して扉をそっと手で開けた。
部屋の中は昼間来た時よりもさらに暗くなっていた。しかし、玉座に座る鎧騎士の巨大な姿は確認することができた。
「……よし。イリア、もうやるのか?」
「ああ……聞け! この城の王よ!」
と、イリアが勇ましい声で、部屋中に響く声で叫ぶ。
それと同時に、今まで死んだように動かなかった鎧騎士が錆びついた音を立てて動き出した。
「私はウェスタの聖女、イリアだ!」
すると、鎧が剣を振り上げる。
『……ウアァァァァァ! ウェスタァァァ!』
そして、言葉にならない叫びをあげながら鎧騎士はこちらに迫ってくる。
「イリア!」
恐怖に一瞬言葉が止まったイリアに、俺は呼びかける。
「……聞け! 私はイリア……聖女イリアの名前を継ぐ者だ!」
もう一度先程よりも大きな声でイリアは叫ぶ。すると、鎧騎士の動きが止まった。
『イリア……イリア?』
今度はきちんと言葉として聞こえてくる。
どうやらウェスタの言っていたことは正しかったらしい。
「そ、そうだ……私はイリアの名前を継ぐ聖女だ……お前の悲しみは分かる。そして、ウェスタ教が間違ったことをしたということも……だから、どうか怒りを鎮めて――」
『チガァァァァァウ!』
と、鎧騎士はいきなりイリアに向かって突進してきた。
「イリア!」
俺は慌ててイリアの方に向かう。
鎧騎士よりも先にイリアの身体に突進し、そのまま吹き飛ばす。
「な……なんだ?」
ポカンとするイリア。なんとか鎧騎士の攻撃は防げた。
「クソ……やっぱり無理か」
そもそも話が通じない……それは十分に考えられる可能性だった。
『チガウ……オレノセイ……イリア、ガ、シンダノハ……オレノセイダァァァ!』
「え……?」
鎧騎士が言った言葉は何か引っかかった。
しかし、それを気にしている余裕はなかった。
またしても、鎧騎士は俺とイリアに襲いかかってきた。
そして、俺達はそれを回避する時間がなかった。
目の前に迫る鎧騎士の巨大な剣先……俺とイリアは死を覚悟した。