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憤怒の騎士 10

「……それが、聖女イリアの逸話の真実なのか?」


 信じられないという顔でイリアは俺を見る。


 ランタンだけが煌々と燃え上がり、俺とイリアを照らしている。


「……ああ、もちろん、信じてくれなくてもいい。ただ……俺はこれが真相だと思っているし、あの鎧騎士が怒っているのもそのせいなんじゃないかと思っている」


 イリアは黙ってしまった。自分が今まで信じてきた話がいきなりぶち壊されるかもしれにないのだ。むしろ、俺はイリアが怒るのではないかと思った。


「……イリア?」


「……よし。では、鎧騎士の所に行こう」


「え……今からか?」


 俺が訊ねると、イリアは小さく頷く。


「ああ。もし、ニトの話が本当ならば、ヤツの怒りを鎮められるのは私だけだ。それが違うのならば、私にだってどうしようもない。もし、ダメならば改宗も諦める。だから、とにかく行ってみるべきだと思うのだ」


 イリアははっきりとそう言った。その瞳には強い意思を見ることが出来る。


「……わかった。危なくなったらまた逃げればいいしな」


 俺がそう言うとイリアは頷いた。そして、俺達は再び城の中ヘ入っていった。


 暗い夜の帳を照らすのは、イリアが持っているランタンだけだ。


 崩壊した城の中の光景をランタンの灯りが照らしているのは、なんだか幻想的な光景に見えた。


「……なぁ、ニト」


 鎧騎士のいる部屋に行く途中、イリアが俺に話しかけてきた。


「ん? なんだ?」


「……これも、ウェスタの女神が与えた試練なのか?」


 不意にそう聞かれて、俺は困ってしまった。


 試練……どちらかというと、ウェスタはまるで楽しんでいるようだった。


 アイツは一緒に居る時からどこかズレている所があったし、確かに、これも試練というつもりはないのかもしれない。


 それにしたって……俺としても、なんだか辛いものがあるが。


「……イリアはどう思うんだ? 試練だと思うのか?」


 ズルいと思ったが、俺はイリアに尋ね返した。イリアも少し困ったように俺を見る。


「……わからない。私は教会で教えを受けていた時は、もっと世界は単純だと思っていたし……ウェスタの女神こそが正しいのだと思っていた……でも……」


 そう言うと、ウェスタはランタンを持ったまま立ち止まった。そして、悲しそうに俯く。


「イリア?」


「……これまでの巡礼の旅で、いろいろな人間がいることもわかったし、いろいろな考え方があることもわかった……かといって、女神ウェスタが間違っているとは思わないし、ウェスタの教えが間違っているとも思わない……だけど……」


 悲しそうに俺のことを見るイリア。


 しかし、俺は眼を反らしてしまった。


 俺には……何もできない。適当な思いつきと勢いでこのいびつな世界を創ったのは俺自身なのだ。


「ニト、私は――」


「……鎧騎士の所、行こうぜ」


 イリアが求める回答を有耶無耶にした創造主である神様は、足早に歩き出したのだった。

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