憤怒の騎士 8
「……お前のせい? お前……アイツに何かしたのか?」
俺が訊ねると、ウェスタは気まずそうに眼を逸らした。
「いやぁ……この世界に伝わる昔話なんだけど……聞きたい?」
ウェスタは嫌そうな顔でそう言う。
俺としてはなんだかその話は聞いておくべきだと思った。
「ああ、聞きたい」
「……昔、ウェスタ教とニト教がまだ争っていた時代、1つの王国があったんだ。そこの王様は大層お妃様を愛していてね……でも、どちらの宗教にも属さなかった。だけど、ウェスタ教が勝利すると、教会側はウェスタ教への所属を命じたんだ。でも、王様はそれに従わなかった。結局、王国はウェスタ教の信者団に包囲されて、陥落まで後一歩となってしまっちゃったんだ……」
「……で、どうなったんだ?」
「そこで、お妃様は王様に言ったんだ。自分がウェスタ教に従うように宣言する。そうすればきっと許してもらえる、と」
「なるほど。で、どうなったんだ?」
「あー……それが、ウェスタ教に従うと言ってきたお妃様を、教会側は人々を惑わす魔女だと言っちゃってね……結局、処刑されちゃったんだよね」
「はぁ? 酷い話だな……」
「あはは……で、まぁ、その後、王様は1人で待った。お妃様が帰ってくるのを。いつまでもね。無論、この城を奪おうと多くの国や領主が攻め入った……それらを全部王様はたった1人で退けたんだ」
ウェスタが話し終わってから、俺は何も言えなくなってしまった。思わずウェスタのことを見る。
白髪に紅の瞳の少女……この小さな神様が創りだした世界は、どうしてこんなにも残酷な設定になってしまったのだろうか。
「ん? どうしたの?」
「……じゃあ、あの鎧騎士が……」
「うん。たぶん王様だね。おそらく彼の怨念が魔法のような働きをして、ずっとこの城を守っているんだろう」
「……どうすればいいんだ? どうすれば、あの鎧騎士を開放できるんだ?」
「さぁ? それは僕にはわからないな」
そう言うとウェスタは俺に背を向けた。
「はぁ? お前……お前が作った世界だろ?」
「違うよ。僕とニト君、2人で作った世界さ。君にだってこの世界をどうすればいいか考える義務がある」
「それは……でも、お前も協力してくれても――」
「嫌だね」
と、ピシャリとウェスタは俺に向かってそう言った。
そして、燃えるような紅い瞳で俺のことを見る。
「君にはイリアがいるじゃないか。僕だって見えないだけで近くで見守っているよ。もしわからなければ2人で相談すればいい。そうでなければ……存分に悩むことだね」
そう言うと、一瞬にしてウェスタは消えてしまった。
なんだか、まるでアイツ……俺が困っていることを楽しんでいる。
直感的にだが、俺はそう思ったのだった。