憤怒の騎士 6
「……どうだ? まだいるか?」
俺とイリアは先程の玉座の間に戻ってきていた。そして、扉の隙間から中の様子を伺っていた。
「……ああ。しかし、座ったままだ。動く気配はない」
イリア曰く、どうやらあの鎧はまだ玉座に座っているらしい。一体何が目的で俺達を襲ってきたのかわけがわからない。
「で、どうすんだよ。アイツを説得でもする気か? 俺にはとてもそんなことはできそうにないと思うがね」
「……説得は無理だ。アイツは……怒っていた」
「ああ。そうだな。でも、何に怒っているのかねぇ……」
俺がそう言うとイリアは腕組みをして考え込んでいた。考えるだけ俺には無駄なような気がしてならなかったが。
「……なぜ、アイツはウェスタと叫んでいたのだ?」
「なぜって……ニト教の信奉者なんだろ? 対立する宗教の聖女が来たら、そりゃあ怒るに決まってんだろ」
「違う。ニト教の信者だからではない。アイツの怒りはもっと違う怒りだった……なんというか、もっと根源的な所にあると思うんだ」
イリアはそういって眉間に皺を寄せて考え込んでいた。
「……つまり、それが分かるまでこの城から離れないってことか?」
俺が訊ねると、イリアは小さくコクリと頷いた。
その顔はまさに真剣で、どうにも冗談でそれを言っているわけではないようだった。
しかし、今まで改宗できなくてもそのまま放っておいたイリアからすると、これは成長っていうやつなんじゃないだろうか……
「……なるほどね。しかし、お前、どうやってアイツの怒りの原因を探るんだ?」
俺がそう言うとイリアは困り顔になった。どうやら、話の通じない相手に対してのコミュニケーション方法までは考えていなかったらしい。
「はぁ……ったく。まぁ、いいや。とりあえず、夜になるまで待とうぜ」
「夜? どうしてだ?」
「アイツだって人間なんだろ? だったら夜になったら寝るはずだ。アイツが寝たら、玉座の間を調べてみよう。何か手がかりがあるかもしれない」
俺がそう言うとイリアは目を輝かせて俺を見た。
「な、なんだよ」
「ニト。お前、かなり頭の良い人間だったのだな」
嬉しそうにそういうイリア。それは本気の表情だった。
人に褒められるの……何年ぶりだっけか。しかも、めちゃくちゃかわいい美人に。
「あ……ま、まぁな」
「よし! では、夜まで待つぞ! 夜になったら、またこの城に潜入し、探索開始だ!」
元気にそう言って、俺とイリアは城の外に出ることにしたのだった。