憤怒の騎士 5
「ひっ……」
その一撃でイリアは地面に尻もちをついてしまった。しかし、鎧は既に剣を振り上げている。
「イリア!」
俺は思わずイリアの手を引っ張った。そして、そのまま一目散に入ってきた扉を足で蹴り明け、そのまま部屋の外にでる。
「なんだよ……魔物はいないんじゃなかったのかよ……!」
この世界には魔物なんていないはずだ。そう設定したのだ。
しかし、先程の鎧騎士はなんだ? とても人間には思えない。
「ニト! 止まれ!」
と、全力疾走で走っていた俺に、イリアがストップをかける。
「どうして? アイツが追ってくるかもしれないだろ?」
「いや……アイツは、もう来てないみたいだ」
そう言われて俺は立ち止まる。イリアの言う通り、鎧が追ってくるような音は聞こえてこない。
「……なんだったんだ。アイツ……」
「さぁ……わからない」
「はぁ……何にせよ。またしても改宗は失敗だな。こんな変な所、さっさとおさらばしようぜ」
俺がそう言っても、イリアはなぜか深刻そうな顔で俯いていた。
「なんだよ。改宗できなかったのが悔しかったのか。仕方ないだろう。あれは話が通じないタイプだよ。そもそも、人間かどうかも怪しいもんだ」
「……違う。アイツは、人間だ」
イリアは確信を持ってそう言った。そして、その綺麗な瞳で俺を見る。
「……ニト。私はもう逃げたくない。アイツが一体何者なのか。それだけでも明らかにしたい」
今まで見たことのない真剣な顔つきで、聖女イリアは俺にそう言ってきたのだった。