憤怒の騎士 2
「え……ちょ、ちょっと待てよ。イリア……これが巡礼地って……こんなところに誰も住んでないだろ?」
「いや、いる。情報によれば、この城には1人の男が住んでいるのだ。その男こそ私が改宗させるべき対象なのだ」
「え……でも、こんな所に住んでいるなんて普通の奴じゃないだろ……なぁ、いっちゃ悪いが、お前の改宗の勧めに耳を貸すとは思えないんだが……」
俺がそこまで言うと、イリアはムッとした顔で俺を見る。
「確かに、お前の言うように私は未熟な聖女だが……巡礼の任務を変更することはできないのだ。神祇官様に申し渡された任務を果たさなければいけないのだ」
そういってイリアはズンズンと城の方向に進んでいった。
どうやら、聞く耳は持たないらしい……もっとも、イリアがそういうタイプであることは俺はこれまでの巡礼の旅で理解しているが。
イリアと共に進んでいくと、城の中には簡単に入ることができた。
城門は既に半壊しており、門番なんてもちろんいない。
「ニトよ。私から離れるな。危険な気配を感じる……」
そういってイリアは腰元のレイピアに手をかける。
もちろん、言われなくても、俺にもこの城が異常であることは理解することができた。
半壊した城門を通り抜けると、今度はボロボロになった城の内部がお出迎えしてきた。
とても人が住んでいるようには思えないし、既に何年……いや、何百年も前に城の内部は破壊されたように見える。
「……イリア。マジで進むのか?」
「……別に、怖いなら城の外で待っていても良いぞ」
そう言うイリアの言葉もどこか強がっているように思える。
さすがに俺も、ここでイリアを1人にするほど落ちぶれてはいない。
俺とイリアはそのまま周囲に異様に警戒心を払いながら城の中を探索する。
とりあえず、階段を登り、上層へと向かう。一階部分は既に全壊していて人が住んでいる気配は見えなかったからである。
そして、階段を登りきり、二階へと辿り着く。
「しかし……その改宗対象とやらは、どこにいるんだよ?」
俺が訊ねると、イリアは困り顔で俺のことを見た。
「……わからない。ただ城に行けとしか、巡礼の任務では示されていなかった」
「あのなぁ……っていうか、これだけデカい城だったら、城主がいるだろ? その男ってのは城主なんじゃないか?」
俺がそう言うとイリアはなぜか驚いた顔で俺を見る。
どうやら、イリアはそこまで考えが及んでいなかったらしい。ほとほと、どこか抜けているポンコツ聖女様である。
「よし。では、その城主を探そう」
そういってイリアは元気よく歩き出した。俺は大きくため息をついてその後を付いて行くことしかできなかった。