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憤怒の騎士 1

「ところで、お前の相棒はどこに行ったのだ?」


 アルピエの森を出てからイリアの背後をついて歩いていた。


 どこへ行くかもしれなかったが、イリアはさすがにどこに行くかわかっているだろうから何も聞かなかったのだが、イリアの方から俺に訊ねて来た。


「え……あ、ああ。えっと、アイツは……用事を思い出して帰ったらしい」


「ふぅん。あの者は、お前とどういう関係だったんだ?」


「え……あ、えっと……俺の同業者、ってところかな?」


 俺が苦し紛れにそう言うと、イリアは怪訝そうな顔で俺を見る。


「……そういえば、お前、職業はなんなんだ?」


「え……え、えっと……」


 さすがに俺も答えに困ってしまった。


 職業は神様……なんてさすがに言えたものではない。


「えっと……創造……物を作ったりする職業なんだけど……」


 苦し紛れに俺がそう言うと、イリアは意外そうな顔で俺を見た。


「物を創る? 芸術家か」


「あ! そ、そうそう!」


 確かにある意味では神様というのは、世界を創造するのだから芸術家……と言えなくもないかもしれない。


 しかし、純粋なイリアに嘘をつくのは、なんだか申し訳ない気分だった。


「そうか。ならば、いつか私の絵も書いてくれ」


「え? イリアの?」


 と、イリアを見ると、言ってしまったから後悔したのか、少し恥ずかしそうに俺を見ている。


「……その……なんだ。大聖堂には美しい聖者の絵が沢山飾られているんだ。だから……私の絵も……書いて欲しい」


「え……あ、ああ。わかった。機会があったらね……」


 無論、俺は絵なんかかける人間ではない。だから、適当に返事をしてしまった。


「そ、そうか……よろしく頼む」


 しかし、イリアは嬉しそうに俺にそう言った。


 絵を書いて欲しい……考えてみれば控えめな願いである。イリアくらいの女の子なら、俺の世界ではもっと自由だった。


 友達と仲良くして、買い物したり、食事をしたり……もちろん、俺は女の子と付き合ったことがないからそんなものなのだろうと予想することしかできないが。


 それでも、イリアがその年齢に相応しくない我慢を強いられているというのは理解できる。


 もっとも、イリア自身はそれを我慢などとは思っていないのだろうが。


「お、見えてきたぞ」


 俺がそんなことを考えていると、目の前に見えてきたのは、巨大な影だった。


「え……な、なんだよこれ……」


 俺は顔をあげて思わずそんなことを言ってしまう。


 俺とイリアの目の前に表れたのは、巨大な建造物だった。


 それはいわゆる、西洋風の城だったのである。


 しかし、よく写真で見るような整備された保存状態の良いものではなく、ところどころ石が欠けていたり、城のあちこちに蔦が生い茂り、城壁は酷く苔むしている。


 とにかく、一目見ても、それが廃墟であるということは瞬時に理解できるような場所だったのである。


「ここが、私の次の巡礼地だ」


 驚く俺の隣で、イリアははっきりと俺にそう言ったのだった。

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