怠惰の森 10
「イリア!」
思わず俺はイリアの肩を揺さぶる。
「おい! な、何やってんだ! なんで勝手に死んでんだ! 勝手に引きこもって、勝手に死んで……お前は何がしたかったんだよ! なんで……」
その言葉は、暗い空間を通して、総て俺自身に跳ね返ってきている……それはわかっていた。
でも、そんなことはどうでもよかった。今は……今だけは。
「……なぁ。最後に1つだけ聞いてくれ」
「ああ……! なんだよ……?」
「……私も泣けるのか……今のお前のように……」
そういってイリアは震える指先で、俺の頬を伝う涙を優しく拭った。
「……ああ……泣ける……ここから出たら、絶対に泣ける! だから、出よう! 俺だって泣けたんだ! だから……」
イリアは俺の言葉を聞いて嬉しそうに微笑んだ。そして、ぐったりとしたままで、目を瞑ってしまった。
「嫌だ……嫌だ! ふざけるな! 俺は神様なんだろ! どうにかしろ! こんなの……こんなの認めないぞ!」
思わずそう絶叫する。既に両目からは大量の涙を流していた。
暗闇の中で、ランタンの炎に照らされているイリアを見ている時、ずっと思っていた。
イリアは、それでも、俺と同じにはならない。
俺は神様なのだ。
だから、きっと目の前の1人の少女くらい、助けられるんだ、と。
それなのに、何もできなかった。これじゃあ、神様になる前と同じだ。
「……頼む。俺が悪かった……だから……だから! イリアだけは助けてくれよ!」
目を瞑って、俺は祈った。
祈る……可笑しな話だった。この世界の神様は俺自身だというのに。
「まったく、仕方ないな、ニト君。ほら、もう泣くのはやめなよ」
しかし、俺の祈りは神に届いたようだった。