表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/100

怠惰の森 9

 それからまたしても時間は流れた。


 俺がかつて過ごしていた時間……それと似たような無為で、空虚な時間。


 それが、俺とイリアがいるだけの空間でずっと流れていた。


 イリアはしばらくは動かないでいたが、しばらくすると、横になってしまった。


 横になったイリアは、それでも動こうとしなかった。


 このままだと間違いなくイリアは死んでしまう……俺はそう確信していた。


 それでも、俺は何もしなかった。何もできなかった。


 イリアに対し、俺は何かをする資格なんてない……そう思えてならなかったのだ。


 彼女が死を望んでいるのだとしたら、それを邪魔することなんて俺にはそんな資格はない……そう思えてならなかったのだ。


 ウェスタが言っていた「神とは観察者」という言葉の意味がなんとなくわかってきた。


 ランタンの炎は相変らず煌々と燃えている。


 そして、それから少し経ったくらいのことだった。


「……なぁ」


 蚊がなくような小さな声が聞こえて来た。俺にはそれがイリアの声であるとはっきりとわかった。


 俺はゆっくりと立ち上がってイリアの元に向かう。


「どうした?」


 イリアの表情は酷く悲しそうで、綺麗な緑色の目は既に暗く濁っていた。


「……私、死ぬのかな」


 俺は何も言えなかった。イリア自身も、それはわかっているはずだった。


「……私……ずっと、1人だったんだ」


 そういってイリアは、目だけを俺の方に向ける。


「……いつも神祇官様には……女神様が近くにいらっしゃると……教えられてきた……でも……女神様の存在なんて感じられなかった……だから、私は、自分が1人だと思っていた……」


 そう言ってイリアは悲しそうに微笑んだ。そのほほ笑みが俺の胸をギュッと締め付ける。


「……でも……お前はずっとここにいてくれた……嬉しかった……初めて、私の近くに誰かがいてくれて……」


 イリアは苦しそうにしながらも、微笑む。


 俺はただ、その苦しそうなイリアを見ていることしかできなかった。


「でも……俺は、何もお前にしてないぞ……」


「……何もしなくてよかった。ただ、いてくれるだけでよかった……そうか……わかった。私自身も……」


 そういってイリアは目を閉じた。俺は間違いなくイリアが死んだと思った。


 ……嫌だ。死んでほしくない。


 俺はその時、明確にイリアに死んでほしくないと願ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ