怠惰の森 6
ランタンの光を頼りに進んでいくと、何やら暗闇の先に人影見えた。
いわゆる体育座りをした状態で、なにやら呟いている。
ランタンの光を反射して金色の髪が綺麗に輝いていた。何より、ロンブスカートに鉄製の胸当てというアンバランスな格好で、それがイリアだということはすぐに理解できた。
「イリア!」
俺は思わず叫んでしまった。しかし、イリアの反応はない。
ランタンを手にしたまま、俺は座り込んでいるイリアの近くに駆け寄る。
「おい! イリア! 何やってんだよ。こんなところで」
俺が呼びかけても、イリアは反応しない。
ただ、何かを小さく呟いているだけである。
「おい! しっかりしろ! お前は聖女なんだろ! こんなところにいていいのか?」
俺がそう言うと、イリアは俺の方にゆっくりと顔を向ける。
緑色に輝いていた瞳は、生気を失ったようで、暗く濁っている。
「……誰だ。お前」
「え……お、俺だよ! ほら、カロンの街から付いてきた……」
「……知らない。放っておいてくれ。私はもう何もしたくないんだ……」
そういってイリアはそのまま腕の中に顔をうずめてしまった。
俺は困ってウェスタが居る方を見る。
「……あれ? う、ウェスタ?」
見ると、いつのまにか背後にいたはずのウェスタがいなくなっていた。
俺は思わず暗闇の中を見渡してしまう。
「ウェスタ!? どこだ?」
俺が呼んでも返事はなかった。アイツ……いきなり姿を消すなんて何考えているんだ……ただでさえ、イリアがこんな状態だというのに……
「……仕方ない。ほら、イリア。とりあえずこんな所にちゃダメだ。さっさと出るぞ」
俺がそういってイリアに触ると、イリアはキッと俺のことを睨んできた。
そして、俺の腕を乱暴に振り払った。
「うるさい! 放っておいてくれって言ったじゃないか!」
「え……で、でも。こんな所にずっといても仕方ないじゃないか」
「何が仕方ないんだ? 別にいいじゃないか。私の勝手だ。お前なんかに指図される筋合いはない!」
そういってイリアは俺のことを睨む。
俺はそのイリアの姿を見て、あることを思い出していた。
これは……俺だ。
かつで、部屋の中で引きこもっていたニートの俺自身の姿なのだ。
俺だって何度も言われた。こんな風に引きこもっていても仕方ない、いい加減外に出ろ、と。
それでも、俺は引きこもるのをやめなかった。
なぜか。嫌だったのだ。
外の世界に出るのが嫌だった。このままずっと自分の部屋だけが、自分自身の世界だったのだ。
だから、俺は外に出なかったのだ。
「……そうか」
それ以上イリアに話しかけなかった。
イリアから少し離れた所にランタンを置き、そのまま座り込む。
そして、そこからじっと、うずくまるイリアの背中を眺めることにした。