怠惰の森 5
そのまま暗闇の中を進んでいってもイリアの姿は見えない。
ランタンがうっすらと照らす先だけが見えて、相変らず周りは暗黒である。
「……イリア、本当にここにいるのか?」
「まぁ、ランタンがあるんだ。いないってことはないんじゃないかな」
「……お前、イリアがどうなってもいいのかよ。アイツはこの世界の中心人物なんじゃないのか?」
俺がそう言うと、ウェスタはキョトンとした顔で俺のことを見る。
「中心人物……別にそんなことはないよ。イリアだってこの世界に住む1人の人間にすぎないさ」
「でも……アイツは聖女なんだろ? だったら、この世界に必要な存在なんじゃないかのかよ」
「だから、言ったじゃないか。聖女になる可能性のある少女は他にもいるんだ。仮にイリアがここで死んでしまっても、代わりなんていくらでもいる……世界に必要とされる人間なんて本の一握りなのさ。君だって、神様になる前は、世界に必要とされる人間だったのかい?」
ウェスタは何喰わぬ顔で俺の痛い所を抉ってくる。どうやら、ウェスタにとってはイリアの生死はマジでどうでもいいようだった。
しかし、俺は違う。なんだかイリアのことが心配になってきた。
無論、イリアは俺が心配していることなんて知らないんだろうが、俺は、イリアが今いる状況が、それこそ、俺のせいで引き起こされているような気がしてきたのだ。
「……ん? ニト君。ちょっと耳を済ませてご覧。何か聞こえないか?」
と、ウェスタがそういうので、俺は耳を済ませてみた。
何やら暗闇の先からボソボソとつぶやくような声が聞こえてくるのである。
「……この声、イリアか」
俺はウェスタに訊ねる。
「う~ん……まぁ、たぶんね」
「たぶん、じゃない。絶対にイリアだ。さぁ、行くぞ」
俺は柄にもなく焦っていた。
神様に転生する前は、誰かのために何かをしてやりたい……そんなこと、思いもしなかった。
だが、今は違う。俺はあのどこか抜けている聖女をどうにかして助けてないといけない……それが俺の使命のような気がしてきたのである。