怠惰の森 3
「……森に、呑まれる?」
よくわからなかったので、俺が聞き返すと、ウェスタはコクリと頷いた。
「え……どういうこと?」
「……この森は、人間の心に忍び込んでくる森なんだ。もちろん、僕とニト君には影響はない……だけど、イリアも聖女とはいえ、人間だ。もし森に魅入られれば……草木の養分になる可能性だって十分にある」
「はぁ? なんじゃそりゃ……めちゃくちゃ物騒な森じゃねぇか」
俺が驚いていると、ウェスタはいきなり立ち止まり、前方の一点を指さす。
「あれ。あれがこの森の『ある場所』だ」
見ると、ウェスタが指差し一点以外の場所には草木は生えていない。しかし、一点には大きな木が生えている。
その木の根本には大きな穴ができている。まるで洞窟のようにそれは奥へとつながっているように見えた。
「……あの中にイリアが?」
「いない方がいいんだけど……たぶん、いるね」
そういってウェスタは歩き出した。
どうやら穴の方に向かっているようである。俺もその後に続く。
そして、穴の前まで来た時、ウェスタは俺の方に顔を向ける。
「ニト君……先に言っておくけどこの穴の先は本来ならこの世界の人間が一度入ってしまうと二度と出て来られなくなってしまう場所なんだ」
「え……な、なんだよそれ……」
「ああ。だから、もし、この中にイリアがいた場合、イリアは本来ならば二度とこの穴から出て来られない……それがこの世界のルールなんだ。それでも……穴に入ってみるかい?」
ウェスタは俺に確認するかのようにジッと俺のことを見つめる。
つまり、この穴の中からイリアを助け出せるのは……神である俺とウェスタだけだということか。
もし、イリアがこの穴の中にいた場合、それは既に死んだも同じ……それなのに、イリアを助けるということは、イリアを特別扱いするということになる……のだろうか。
「……ああ。わかった」
俺がそう言うとウェスタはそれでも少し不安そうに俺のことを見ていたが、しばらくすると、ゆっくりと穴の中に足を踏み入れた。
俺もその後をついて一歩穴の中に足を入れたのだった。