怠惰の森 2
森の中は思った通りにシーンと鎮まりかえっていて不気味な感じだった。
森なのだから動物や虫が蠢く気配くらいあってもいいものなのだが、どうにもそれも感じられない。
「こ、この森……なんか変じゃないか?」
「そうかな? 普通の森だと思うけど」
ウェスタにはとっては普通の森に見えるらしい。
そりゃあ、神様にとっては怖いものなんてあるはずないのだから、当然のことか。
というか、俺だって神なのだ。あまりビビっていても仕方ない気がする。
「……っていうか、これだけ広い森だと、イリアがどこにいるかわからないんじゃないか?」
「いや、それは分かるよ。この森のある場所に、人を引き寄せる場所があるんだ」
「はぁ? なんだよそれ……全然普通の森じゃないじゃねぇか」
「ははは。まぁ、この世界に住む普通の人間にとってはこの森は普通じゃないね。でも、僕やニト君にとっては普通の森だ、って意味でさっきは普通の森だって言ったのだけれど?」
何食わぬ顔でそういうウェスタ。そんなことよりも、そんな危険性があるのならさっさとイリアを探しださなければならない。
「……で、そのある場所ってのはどこなんだよ」
「ああ、もうすぐ着くよ。この森は複雑でね。そこに行こうと思うと酷く長い道程を歩かなければいけないくせに、何も考えずこの森に入ると、あっという間にそこへたどり着けるんだ……ホント、面倒な森だよ」
ウェスタの話を聞けば聞くほど、益々普通の森ではないということがわかってくる。
そんな危機感を覚えながら、俺とウェスタはそのまま歩いて行く。
「……ん?」
と、歩いている途中、ふと何か、光るものが落ちているのが見えた。俺は思わず駆け寄ってそれを確認する。
「あ……これ」
そこに落ちていたのはランタンだった。煌々と燃え上がる炎がきらめくランタン……間違いなく、イリアが手にしていたランタンだ。
「ふむ……これを落としてしまっているということは、相当ヤバイ状態だね」
ウェスタは腕組みをして唸りながらそう言った。
「はぁ? ど、どういうことだよ?」
俺が訊ねると、眉間に皺を寄せてウェスタは俺を見る。
「……このままだと、イリアはこの森に呑まれちゃうか可能性がある、ってことだよ」