神の感覚、人の感覚
「……とは言ったものの……」
追ってみてすぐにわかったのだが、既にイリアの姿はどこにもなかった。
ノリで言い出してしまった俺は、ウェスタの手前なんとも気まずい状態になっていたのだった。
「……ニト君。君というヤツは……そんな風に勢いだけで行動するから、前の世界でロクな生活ができなかったんだよ」
ウェスタは相当不機嫌なのか、胸に突き刺さる言葉をそのまま俺に浴びせかけてきた。
「……なんだよ。お前なぁ……大体、あの神父の言っていたことの方が正しいだろう。どうなってんだよ。この世界は」
俺が訊ねると、ウェスタはキッと俺を睨みつけてきた。その紅い瞳はまるで燃え上がるように俺を見ていた。
「……あのね、ニト君。君と僕は神なんだよ。この世界に住む1人の人間の言葉に影響を受けてどうするんだい?」
「え……で、でも、あのおっさんの言うことも、最もだったし……」
「それは、あの神父の周りの世界がそうであるだけだ。彼にとってこの世界は不公平に見えるのかもしれない。でも、僕達……少なくとも、僕にとってはこの世界は正常だよ。なるべくしてなった姿だ」
ウェスタは本気でそう言っているようだった。俺はそれに対して何か言い返そうとしたが何も言い返せなかった。
そもそも、この世界をこんな風に作ろうと言い出したのは俺だ。適当な思いつきだけでそれっぽい感じの異世界にする……今考えればあまりにも愚かだったというわけである。
「大体、世界が完全に公平なんてありえないんだ。それは、ニト君が身を持って知っていることだろう?」
……そうだ。俺自身、前の世界ではどうしようもない存在で、どうしようもない状況に甘んじていることしかできなかった。
それは、俺が考えた世界でも同様のこと……それに対して異を唱えるのは、確かに可笑しいかもしれない。
「……ああ。すまん」
俺がそういうと、ウェスタはニッコリと微笑んだ。
「ニト君。いいんだよ。君は神になりたてで、神がどういう存在かまだわかっていないだけなんだ。しばらくすれば、僕みたいに考えることができるよ」
ウェスタのように……つまり、世界のありのままを受け入れるということか?
正直、ウェスタは悪いヤツではないと思うが、その考えには時々共感できないことがある。
それは、ウェスタが神で、俺が転生して間もない神という違いがあるからなのか……
「ほら。イリアを探しに行くんだろう。僕はイリアの次の目的地がわかっているんだ。一緒に行こう」
と、今度はウェスタに手を引かれ、俺は歩き出した。
「あ、ああ……」
煮え切らない返事をして、俺はウェスタに付いて歩き出したのだった。