強欲な神父 6
「……それは、貴様達が邪神を称えているからだ。女神ウェスタの加護に預かれば、飢えることなどない」
「そうでしょうか? では、なぜ女神ウェスタは、あの可愛い子どもたちにも慈悲を与えないのです? それが本当に、女神のご意思なのですか?」
神父は続けてそういう。イリアは返す言葉がなくなってしまったようだった。
「……私も、かつてウェスタの教えを学ぶものでした。ですが、私の考えは、教会から否定され、追放されたのです。何日も呑まず喰わずの私を救ってくれたのが、あの村の者達でした……だから、私は神に背くことになっても、あの者達を救いたかったのです」
神父はそういってイリアを見る。そして、なぜか悲しそうに大きくため息をついた。
「……聖女様。アナタがかつて私を否定した教会と同じように、私を断罪するというのなら、どうぞ、おやりなさい。ですが、私は自分が間違っているとは思っていない。自分の考えに迷いはない。少なくとも、アナタのようには」
そう言うと、イリアは悔しそうに下唇を噛みしめる。そして、目の端に涙を貯めたままま、神父から背を向け、そのまま走り去ってしまった。
「あ……おい! イリア!」
「ニト君」
追いかけようとした俺を、ウェスタが呼びとめた。俺は思わず立ち止まる。
「え……いいのかよ?」
「ああ。イリアの行く先はわかっている。今は1人にしてあげた方がいい」
そういってウェスタは神父の方を見る。
「……君は、昔ウェスタの教えを学んでいた。そして、ウェスタの教義にはない、他人への施しを率先して行っていた。それが、教会にとっては異端と見做され、君は追放された……そうだね?」
ウェスタがそう言うと、神父は驚いたように俺とウェスタを見ていた。
そして、しばらくしてから優しい笑顔でニッコリと微笑んだ。
「アナタ達は……見たところ、普通の人間ではないですね」