強欲な神父 2
紳士の身なりは、ウェスタ教の大聖堂で見た神祇官のように整えられたもので、紳士が聖職者であることを窺わせた。
「ああ。神父バッコス……貴様、この周辺の住民に対してずいぶんとあくどい商売を行っているようだな」
イリアが鋭い瞳で睨みつけながらそういうと、神父は最初面食らったように眼を丸くしていたが、すぐに柔和な笑顔で微笑んだ。
「フフッ……聖女様、でしたかな? 私はそのようなことはしておりませぬ。ただ、教会に来る子羊達に安らぎを与えているだけです」
「安らぎ? ニト教の安らぎか……ニト教の教えでは、安らぎとは即物的なものを指す。やはり貴様、信徒達から金を貰っているだろう」
そういってイリアはいきなり、腰元から抜き出した細長いレイピアを神父に向けた。
どうやら、その騎士っぽい出で立ち通りに、一応腰元に護身用の武器は持っていたらしい。
さすがに神父も驚いたのか、後退りする。
「お、おい……イリア」
そして、俺も思わずなだめるように声をかけてしまった。
「うるさい! 無関係な者は黙っていろ!」
イリアは大声で俺に怒鳴った。なんだか余裕が無いようにみえる。
「う~ん……やっぱり、これまでの改宗の失敗が、彼女を焦らせているみたいだね」
ウェスタはあくまで部外者らしく淡々と俺にそう耳打ちした。
しかし、一番焦っているのは俺だけのようである。なぜなら神父もあまり怖がる素振りも見せず、イリアのことを落ち着いてみていたからだ。
「……ふむ。わかりました。聖女様。逆に聞きましょう。ウェスタ教でいう安らぎとはなんなのですか?」
「何? フンッ……愚かな質問だ。ウェスタの女神の教えでは、安らぎとは神への祈りの中でのみ与えられる。それだけだ」
「そうですか……では、人々は飢えや苦しみに対してはどう対処すればよいのですか?」
「……何の話だ?」
すると、神父はイリア背中を向け、教会の中へと戻っていく。
「お、おい! 話はまだ終わっていないぞ!」
「ええ。ですから、こちらに来てお座りなさい」
神父はそういってイリアを手招きしている。イリアはどうするか迷っているようだった。
「い、行ったほうがいいんじゃないか?」
俺がそういうとイリアはキッと俺を睨みつける。
それからゆっくりと神父の言う通りに教会の中ヘ入っていった。




