世界の仕組み
「……女神の加護、ねぇ」
祈りを続けているイリアから少し離れたところで、俺とウェスタはイリアが炎に向かって祈っているその姿を見ていた。
「別に、僕はそんな教えを創ったつもりはないよ。ただ、世界がそういう教えとして解釈しただけさ」
身も蓋もないことを、ウェスタはさらっと言ってのける。
「……でもよぉ、イリアは、炎に祈れば、マジでお前が護ってくれるって思っているんじゃないのか?」
俺がそういうと、ウェスタは首を横に振る。
「違うよ、ニト君。イリアも言ったじゃないか。護ってくれるなんて思ってないさ。あくまで祈りは、保険のようなものなんだ。祈ることによって、自分の行動の責任を、自分自身ではなく、神の責任にする……ウェスタ教の祈りとはそういうものだよ」
「はぁ? なんだそりゃ。ずいぶんと無責任だな……」
「そうだね。でも、ウェスタ教における神の存在とはそういうものだ。ニト教はその反対だろうけどね」
「え……そうなの?」
「ああ。まだ実感はないだろうけど、ニト教では、神を神として崇めていない。神の存在は信じているけれど、神と触れ合おうとはしないんだ。責任は自分にあって、神は近くで自分を見ているだけ……簡単にいえばそういう教義の宗教なんだ」
「……ウェスタ教と全然違うな」
「うん。だから、イリアは君のことを異教徒呼ばわりするし、2つの宗教同士で争いが起きるんだよ」
まるで子供に言い聞かせるようにウェスタの話を聞きながら、俺はなんだか自分が情けなく思えてきた。
俺は神であるにも拘らず世界のことを何も知らないじゃないか……もっとも、それは神として転生する前から、同じだったのだけど。
「……お前は、それでいいのかよ」
俺は思わずウェスタに訊ねてみた。ウェスタはキョトンとした顔で俺を見る。
「うん。別に。僕の子どもたちが僕に対してどういう解釈をしようが、子供のすることさ。神である僕が口を出すことじゃない」
「それって……どうでもいいってことかよ」
「どうでもいいっていうか……あまり、気にしていないってことかな」
特に悪びれる様子もなく、ウェスタはそう言った。時々コイツは、ゾッとする程冷淡に物事を言ってくる時がある……それは、転生した俺と違い、最初から神であるウェスタ特有の性質、とでも言ったものなのだろうか。
「おい、何を話している」
と、そこへ祈りを終えたらしいイリアがやってきた。
「あ、ああ。いや、祈りの邪魔をしちゃ悪いよなぁ、って話を……」
「そうか。もうすぐ次の巡礼地に着く。私は聖女として、対象に改宗を薦めるが……お前たちは余計なことをするなよ」
そういってイリアは歩き出した。
「……今度は大丈夫なのか?」
思わず俺がウェスタに訊ねると、ウェスタは苦笑いした。
「たぶん……ダメだね」
言われた俺も、苦笑いすることしかできなかった。