聖女への同行 5
こうして、イリアと俺、そして、ウェスタの旅がはじまってしまった。
考えてみれば別にイリアと一緒に旅をしてみたところで、イリアのダメダメさが治るわけでもなく……
というか、一緒に旅をしているからこそ、ダメダメさを直してやらないとダメなのか。
「あ……なぁ、聖女様。ちょっといいか?」
夕刻に差し掛かった頃、俺はイリアに声をかけた。
俺が唐突にそういうと、イリアは怪訝そうな顔で俺のことを見る。
「なんだ。巡礼の旅に無駄にしている時間はない。貴様の無駄話を聞いている暇はないのだが」
「あ、あはは……悪いね。ちょっと聞きたいんだけど……カロンの街では、何をしてたんだ?」
俺がそう言うと、イリアは言葉に詰まってしまったようだった。
それはそうだろう。娼婦の真似事をさせられようとして、挙句、泣いてしまって結局客の相手ができなかったのだ。
そして、またしても異教徒の改宗には失敗……聖女の面目丸つぶれである。
「き……貴様には、関係のないことだ」
明らかに動揺している様子で、イリアは俺にそう言った。
「あ……そ、そう」
「……もういいか? そろそろ女神への祈りの時間なんだが」
そういってイリアは手にしていたランタンを地面に置く。
「その……なんでランタンに祈っているんだ?」
思わず俺が訊ねると、イリアは呆れ顔で俺のことを見てきた。
「……異教徒はそんなことも知らないのか? まったく……見ろ。この聖なる炎は女神ウェスタの分身なのだ。この炎に祈ることで、女神ウェスタの加護が得られる……もっとも、お前のような異教徒は女神の加護を受けることはできないだろうがな」
なぜか馬鹿にした感じでイリアはそういった。俺はチラリとウェスタを見る。ウェスタは満足そうな様子でその話を聞いていた。
「……それで、女神の加護は得られるのか?」
「はぁ? どういう意味だ?」
「だから……炎に祈ると、なんかいいことがあるのか、ってことだよ」
俺がそういうと、イリアは少し考えていたようだったが、しばらくしてからまたしてもわざとらしくため息をついた。
「……いいか。異教徒よ。お前たちにはわからないだろうが、神の加護とは求めるものではない。あくまで女神が我等に施してくれるものなのだ。それを、具体的な形で求める方がおかしいのだ」
「え……あ……そ、そう、なんだ」
「分かったら黙っていろ。祈りの邪魔だ」
そういってイリアはランタンの中で煌々と燃え盛る炎に対して、両手を組み合わせて跪いて祈りだしたのだった。




