聖女への同行 3
「……え、ちょ、ちょっとまてよ。無理だって」
直前まで来て、俺はさすがにいきなり過ぎると感じ、ウェスタにストップをかける。
しかし、ウェスタは不思議そうに俺を見るだけである。
「なぜだい? 君はこの世界の神なんだよ。何を遠慮する必要があるんだい?」
「い、いや。だってよぉ……」
「いいじゃないか。別に。おーい、そこの聖女様」
と、いきなりウェスタが大声でそういったものだから、イリアだけでなく周りにいる大勢の人間がこちらを見た。
「ここにいる人が話があるんだって!」
ウェスタがそう言うと、イリアもこちらへ近づいてきた。
どうすることもできず、俺はイリアと対峙することになったしまった。
「……なんだ。話とは」
「え……えっと、その……」
「ん? ……貴様、どこかで……」
眉間に皺を寄せて俺を見るイリア。
綺麗な顔が少しずつ不審げな表情に変わっていく。
どうやら、イリアは俺が娼館での客だとはまだはっきりとは認識していないようだった。テンパっていたのは俺だけではなかったらしい。
そして、咄嗟に俺の中でイリアがそれに気づく前に、「何か言わなければ」という考えが頭の中に浮かんできた。
「あ……え、えっと! そ、その……お、俺! 改宗しようと思うんだよね……」
そして、とんでもなく無様に俺は言葉をまくしたてた。
イリアもウェスタも不思議そうに俺のことを見ていた。
「……改宗、だと?」
「あ、ああ……じ、実は俺はその……ニト教の信者なんだ。だから、その……ウェスタ教に改宗したいなぁ、って……」
俺は曖昧に笑いを作りながら、イリアにそう言う。
イリアは変わらず不審げな顔で俺のことを見ている。
「……貴様。なぜ私がウェスタの聖女であることを知っている?」
「え……あ、え、えっと……聞いたんだよ。この街に聖女様が来ているって……」
イリアはさすがに不審そうに俺の事を見る。
さすがにこの理由は苦し紛れすぎたか……
「……そっちのお前も、そういう理由なのか?」
「うん。僕もその噂聞いたよ。とても美人で凛々しい感じの聖女様がこの街に来ている、って」
ウェスタは悪びれることもなく、笑顔でそんな嘘を言った。
しかし、それを聞いて、イリアは少し嬉しそうに頬を緩めたのである。
「……そ、そうか。なるほど。異教徒の中にも、ウェスタの聖女の来訪を街の中で話題にするものがいるということか」
かなり嬉しそうにするイリア。先程まで娼婦の真似事をやらされそうになって泣いていた顔とはまるで違う、自信に満ちた顔だった。
「ならばすぐに改宗させてやろう。ここで女神ウェスタに誓えば、今直ぐにでもウェスタ教の信徒になることができるぞ」
そう言われて俺は思わずウェスタを見てしまった。
その女神とやらが、俺の隣にいる小さな女の子その人なのだが……




