聖女への同行 1
「……はぁ……はぁ」
息せき切ってしばらく走った後、俺は背後を振り返った。
カロン娼館はもうずいぶん遠くに見える。
「まったく、ニト君は度胸がないねぇ」
と、そこへ背後から聞こえて来た声。俺は咄嗟に振り返る。
真っ白な髪に、紅の瞳……
「ウェスタ……」
「これで、またしてもイリアは改宗に失敗したってわけだ」
まるで他人事といった感じで、ウェスタはつまらなそうにそう言った。
「お前……イリアをどうしたいんだ?」
俺は思わずウェスタに詰め寄ってしまった。
「どうするって……別にどうもしないさ。僕はあくまで神であり、観察者なんだ。そんな風に言われたってどうとも言えない」
「お前……アイツ、このままじゃ、どんどん危険な目に逢うぞ? それでもいいのかよ!?」
「仕方ないさ。それが彼女の運命なんだ。ニト君が僕に怒っても変えられるものじゃない。それに、ニト君は結局イリアから逃げてきたじゃないか。彼女に何もしていない……僕と何か代わりがあるのかな?」
悪気なくそういうウェスタ。俺は、またしても何も言えなくなってしまった。
そうだ……俺は逃げてきた。
生きていた時と同じように、俺は、イリアからも逃げてきたのだ。
結局、俺は何もせずただ黙っていて、これから先、彼女がどんな危険な目に遭っても黙って見ていることしかできない……
「……なぁ、ウェスタ」
「ん? なんだい?」
「……神であることを隠していれば、イリアと接触してもいいのか?」
俺がそう訊くと、ウェスタは少し考え込んだ後で、小さく頷いた。
「ああ。別に構わない。そもそも、イリアは君のことを神だと認識できない。さっきのようなことを言っても、頭のおかしい異端者と思われるだけだ。もちろん、ニト君とイリアが関わりを持っても、それはこの世界にとって何の影響もないことだよ」
「……そうか。だったら……俺、アイツと一緒に行動するよ」
俺は意を決してウェスタにそう言ったのだった。