色欲の館 8
「じゃあ~、ごゆっくり~」
と、受付嬢の女の子は、俺とイリアを部屋に通すと、あっという間に去って行ってしまった。
部屋の中にはベッドが1つあるだけで、それこそ「やることは1つ!」といった状態の部屋であった。
「え、えっと……」
俺がイリアの方を向くと、イリアはまるで捨てられた犬のように、警戒心まるだしで構えており、俺のことを睨んでいた。
「あ、あはは……その……ま、まぁ、落ち着いてよ」
「うるさい! いいか、私はウェスタの聖女だ! 貴様のような外道は女神の天罰が必ずや下ることだろう!」
興奮した状態でそういうイリア。その女神に言われて、俺はこうやってここにいるのだが……
「あー……わかっているって。聖女イリア、でしょ。今、巡礼の旅の途中なんだよね?」
俺がそう言うと、イリアはキョトンとした顔で俺を見た。
「なぜ、それを……?」
「え? なぜって……そうだな。俺……神なんだよね」
あまりにも説明不足だと思ったが、どう説明すればいいかもわからなかった。
だったら、直接的に言ってしまった方が、イリアもわかりやすいと思ったのである。
すると、イリアは警戒心を解いてくれたようで、構えをやめてくれた。
「神……貴様が?」
「ああ、そうそう。俺……えっと、ニト、って名前らしいんだけど……俺とウェスタの2人でこの世界を創った……だよね?」
そう言うとイリアはいきなり俺に飛びかかってきた。そして、そのまま俺をベッドに押し倒す。
「な……何?」
「……この異端者め。聖女の前で神を騙るとは、万死に値するぞ!」
再び激昂するイリア。どうやら、俺の説明方法は失敗だったらしい。
「はぁ……やっぱりニトくんだけじゃダメか」
と、頭の中にウェスタの声が聞こえて来た。
「え……声……?」
と、イリアにも同じように聞こえたらしい。どうやら、ウェスタがイリアにも声を聞かせているようである。
「ま、どう説明しても、たぶん信じてもらえないけどね」
「はぁ? なんだよ、それ……じゃあ、どうすればいいんだよ?」
「う~ん……まぁ、普通に接客を受ければいいんじゃない?」
「え……じゃあ、お前……イリアにその……娼婦の真似事をさせるっていうのかよ?」
「うん。まぁ、大丈夫とだと思うよ」
そういってまたしてもウェスタの声は聞こえなくなった。イリアは相変らず周囲を見回している。
「き、貴様……何をした!? 神を騙り、私に幻聴を聞かせるなど……異端者め、今この私が成敗して……!」
そういってイリアは腰から何かを引き出そうとする。しかし、腰にあるのはヒラヒラのレースだけである。
「あ……そ、そうか。今は……」
「おい」
と、俺は困惑しているイリアに向かって声をかける。
「な、なんだ……」
「……あのよぉ。俺が神って言ったのは、お前にとっての神様ってことなんだよ。俺は客なんだ。娼婦であるお前にとっては神、なんだよ」
なんとも苦しいいいわけであったが、イリアは眉間に皺を寄せると、俺の身体の上からようやくどいてくれた。
「何を馬鹿な……貴様のような外道、相手にする必要はない」
「おや? いいのか、仕事をしなくて。それじゃあ、娼婦失格だな」
仕事、という言葉でイリアは女主人との約束を思い出したらしい。下唇を精一杯噛んで忌々しげに俺の事を見る。
そして、ベッドの上に座り、こういったのだ。
「くっ……好きにしろ」