突然の異世界転生 3
「……えっと、つまり、お前はこの真っ暗な空間の神様で、俺はこれから世界を創造する手伝いをするためにここに呼ばれたってことか?」
「違うよ。ここは君の世界なの。君が創造しなくちゃいけないの」
ふくれっ面でウェスタは俺にそう言う。
「……いや、だから、俺の世界って……どういうことなんだよ?」
「どういうことって……君。作っただろ? 自分で世界を」
「は? 作ってないよ……俺は……そもそも、ニート……だったし……」
俺の声が段々小さくなっていくのにも拘らず、ウェスタは俺の方に近づいてきてジッとその眼で俺を見る。
「君……ホントに忘れちゃったの? 作ったでしょ? 三年前に」
「三年前?」
「そうだよ。パソコンにテキストファイルとして残っているはずさ」
「……え? ど、どういうこと?」
「だから……書こうとしたじゃないか。物語を」
そこまで言われてようやく思い出した。
確かにニート生活初期に、作家になれば印税生活でウハウハだ、なんて思った挙句、ラノベを書こうとして三日でやめたのだ。
「え……ちょ、ちょっと待てよ。つまり、この世界は……」
「だから、言っているじゃないか。君が作った世界だよ」
そこまで言われてようやく俺は思い出した。
なるほど。この世界が真っ暗なのは、何も存在していないからだ。
「……俺はあのラノベを、主人公が異世界に行く前に投げ出してしまった……だから何もここには存在しないのか」
「そう。だから、君にはこれからこの世界を創造してもらう、ってわけ」
「……でも、お前……じゃなくて……ウェスタはなんなんだよ? 俺、そんなキャラを出した覚えはないぞ?」
「えっとね……君たちは知らないかもしれないけれど、あらゆる世界に神はいるんだ。それが例え実際には存在しない世界であっても、神はそこに存在する。仮に途中で投げ出された物語の世界にも神は存在してしまうんだよ」
「へぇ……でも、名前は……」
「ああ。名前は僕が勝手に付けたんだ。君たちの世界の有名な神の名前に因んでね。そういえば、君の名前は?」
「え? あー……えっと……あ、あれ? 名前……俺の名前は……?」
恐ろしいことに、自分の名前が思い出せなかったのだ。
「ふ、ふざけんなよ……なんでニートだったことは覚えてんのによぉ……」
「に……と? 君の名前は『ニト』なのかい?」
「は? ニトって……え、あ……まぁ、いいや、もう」
考えてみれば、俺はウェスタの言葉を信じるならば、転生したのである。そうなれば元の名前など関係ない。
ニト……元々はニートなのだが……少しかっこいい名前に思えなくもない。
「あ、ああ。俺の名前はニト……だよ」
「そうか。よろしくね、ニト君」
ニッコリと笑みを浮かべて、ウェスタは俺の手を握ってきた。
生きている間は絶対に触れることの出来なかった女の子の柔らかい手を、俺はぎゅっと握りしめたのだった。