色欲の館 4
「そ、それは……どういう意味だ?」
既にわかっているはずであったが、イリアは女主人にそう訊ねた。
「そのままの意味よ。私達と同じ仕事をしてもらうのよ。それで、お客様を1人、相手してくれればそれでいいわ」
そういって女主人は、鋭い目つきでイリアを睨む。
「で、どうなのかしら? やる? やらない?」
イリアは動揺しているようだった。そして、思わず女主人から目を反らす。
「わ、私は……女神に身を捧げている……そんな汚らわしい真似はできない!」
そういうと、女主人はわざとらしく、大きくため息をついた。
「そう……残念ね。じゃあ、取引はなし。この娼館を閉鎖することはできないわね」
「なっ……き、貴様……」
「何? 別にいいのでしょう? 聖女様は、私1人が改宗しなかったくらいで、自分の立場が危うくなるなんてことないのでしょう?」
と、女主人は見透かしたようにそういった。
「……実際どうなんだ?」
俺は思わずウェスタにそう訊ねる。
「うん。大丈夫だね。前も言ったけど、別にイリアに異端者を改宗させなければいけないんなんて義務はない。ただ巡礼の旅を終えて無事に帰ってくる、それだけでいいんだ」
「……だよな。だったら……」
俺はもう一度イリアを見る。イリアは悔しそうに下を向いているが、おそらく、女主人の条件を飲むことは出来ないはずである。
「……もういいかしら? 私も暇じゃないのよね。じゃあ、聖女様、巡礼の旅、頑張ってね」
馬鹿にしきった調子で、女主人がイリアに背を向けた。其の時だった。
「ま、待て!」
と、イリアのハスキーな低い声が響いた。
女主人はゆっくりとイリアの方に振り返る。
「わ……わかった。一回だけだ。一回だけ……」
イリアの其の言葉を聞いて、女主人は満足そうにニンマリと微笑んだのだった。