色欲の館 3
「……しかし、どんなヤツが出てくるんだろうな」
俺はウェスタにそう話しかけてみた。
「うーん……まぁ、この娼館の主人だからね。それなりにやり手の女の人が出てくるんじゃない?」
「やり手……こんな商売でよくもまぁ、ここまで儲けるよなぁ」
「こんな商売って……別に立派じゃないか。こうでもしなきゃ、この世界では女性は上手くいきていけない状況なんだよ」
「え……それって、どういう――」
俺がウェスタの言葉が気になって、そこまで聞いた丁度その時だった。
「お待たせしたわね。アナタが、聖女様?」
と、店の奥から声が聞こえて来た。俺とウェスタ、そして、イリアはそちらを向く。
「え……コイツが、主人?」
俺は思わずそう呟いてしまった。
ソイツは、おおよそ娼婦には見えなかった。
パイプを口に咥え、露出度の高いベールのような服を着ている点は娼婦としてはそれっぽい。
だけど、その顔には大きな傷があった。
そして、何より左腕が無いのだ。右腕で持ったパイプを口に咥える。
どこか威圧感がある女は、パイプから大きく煙を吐き出し、イリアを見る。
「聖女様。はじめまして。私、この娼館の女主人、ディアナと言います。よろしく」
「あ、ああ……私はイリア。ウェスタの聖女だ。今は巡礼の旅の最中なのだが……ああ、そうだ。お前はニト教を信仰しているそうだな?」
「え? ああ、そうね……まぁ、信奉しているってことになるのかしらね?」
パイプを口にくわえるとヘラヘラと笑いながら女主人はそう言った。
「ならば、今すぐその信仰を捨てろ。改宗するのだ。そうすれば、女神ウェスタのご加護がお前にも約束される」
と、イリアのその言葉を訊くと、女主人は呆然としていた。
そして、しばらくしてからパイプを咥え、煙を吐き出す。
「そうねぇ……別にいいわよ」
あっさりとした返事だった。イリアもそれは予想外だったらしく、ポカンとしている。
「そ……そうか。ならば、まず、この娼館は閉鎖しろ。性欲に従って行動することはウェスタ教では禁止されているからな」
「……あら、聖女様。なんの条件もなく、というわけにはいかないわよ」
と、油断していたイリアに、女主人の鋭い言葉が突き刺さる。
「条件? な、なんだそれは」
「フフッ。簡単なことよ。この娼館で働いている女の子なら誰でもやっていることだわ。それを、聖女様に一回だけ体験してもらうの。それさえやってくれれば、喜んでこの娼館を閉鎖して、ウェスタ教に改宗するわ」
イリアは当初、それがどういう意味かわかっていないようだったが、すぐにその顔は酷く歪んだのだった。