光栄である受難
そして、それからイリアはリンボ村を離れて歩き続けた。
イリアの旅は案外に順調で、道中で野盗に襲われることもなければ、獣が襲撃してくることもなかった。
それだけにイリア自身も順調に旅を続けられていることが満足らしく、嬉しそうな顔で歩みを進めていた。
「……おい、こんなんでホントに巡礼になるのかよ」
俺は思わずウェスタにそう訪ねてしまった。
「うん。無事に指定された場所に行って、無事に戻ってくれば立派に巡礼の儀を果たしたことになるからね。問題ないよ」
ウェスタの言葉に俺はなんとなく納得できなかった。何もしないでただ巡礼すればそれでいいなんて、なんともご都合主義な巡礼の旅だと思った。
「……で、次の巡礼地にはいつ着くんだよ」
「そろそろじゃないかな。リンボ村からも大分離れたし。ほら、遠くに見えてきた」
ウェスタの言う通り、道の先にはなにやら街のようなものが見えてきた。リンボ村よりも多くの家々が立ち並んでおり、規模の大きい場所であるということがわかった。
「……また、人を食おうとする爺さんが住んでたりしないんだよな?」
俺がうんざりとした様子でウェスタに訊ねると、ウェスタはすぐに頷いた。
「そうだね。人を食おうとするおじいさんは、ちょっといないかな」
「『は』って……ちょっと待てよ。それ以上に可笑しなヤツはいないんだよな?」
俺がそう言うと、ウェスタはキョトンとした様子で俺のことを見る。
「そんなことは行ってみないとわからないよ。それに、被害を受けるのはイリアだ。僕達は関係ない」
「はぁ? お前なぁ……またあのポンコツ聖女がひどい目にあってもいいっていうのかよ?」
俺がそう言うと、躊躇うこと無くウェスタは大きく頷いた。
「巡礼の旅は、イリアにとって受難の旅であるべきだ。辛いことがあっても仕方ないと思うし、危険な目にあって命を落としても、それは仕方ないことだと思うね」
「はぁ? お前……それでも神様かよ?」
俺が呆れ気味にそう言うと、ウェスタはニッコリとなぜか微笑んだ。
「うん。神様だからね。世界で起きていること自体には、あまり干渉しないべきだと僕は思うんだよね」
ウェスタは本気でそう言っているようだったので、俺はそれ以上ツッコまないことにした。
だが、俺の考えは違う。
この少しおかしな世界を、もう少し良くするべきだ。
かといってどうしたらこの世界が良くなるかなんて、俺には思いつくこともなかったのだけれど。