暴食の村 7
「……それにしても、なんであの爺さん、イリアを食おうとしたんだ?」
再び歩き出したイリアの後をついていきながら、俺はウェスタに訊ねた。
「そりゃあ、食べるものがなくなったからさ」
「食べるものがない……飢饉とかか?」
「違うよ。ウェスタ教のせいさ」
ウェスタはそう言って目の前のイリアを見る。イリアは、何事もなかったかのようにすました顔で、歩みを進めていた。
「ウェスタ教のせい……?」
「うん。この世界の大多数はウェスタ教を信仰している。ニト教の信者はごくわずかさ。そのせいで、社会的格差も宗教によって異なっている。おおまかに言えば、ウェスタ教が上でニト教は下なのさ」
「それで、食料とかはウェスタ教が独占しているのか?」
「独占ってわけじゃないよ。ただ、信者の数が多いから自然と持っている食料が多くなるよね。その分、ニト教が持てる食料はごくわずか……おじいさんも人を食べようとしちゃうわけだ」
ウェスタはそう言って俺のことを見た。その紅い瞳は、まるで燃え上がっているかのように不思議な色を呈していた。
「……なんとかならないのか?」
「無理だね。仕方ないことさ。世界にはこういうことが多々ある。君の生きていた世界だって、そういうこと、あっただろ?」
ウェスタはひどく突き放したような、冷たい言い方をした。俺はなんだかその言い方が妙に冷たくて、少し恐怖さえ感じた。
「え……あ、ああ。でも、俺達は世界が平和になるようにして設定を創ったのに……」
それでも、俺はなんとか取り繕って、ウェスタにそう言った。
「……ほんとだよね。僕も、すごく残念だよ」
すると、ウェスタは本気で悲しそうな顔をした。俺もなんとなく目の前で呑気に歩いているイリアに対して腹が立ってきた。
「……おい! ポンコツ聖女! 何も解決してねぇぞ! 気づけ!」
と、俺が叫ぶと、イリアはビクンと反応し、振り返った。
「な、なんだ? 今のは……気のせい……か?」
イリアは怯えたように周囲を見回しながら、またしても歩みを勧めた。
「ふふっ。まぁ、イリア本人はいまだこの世界のおかしさに気付いていないみたいだね」
「ったく……それでも聖女かよ」
「うん。でも大丈夫さ。きっと、次の巡礼地に行けば、イリアも少しは世界の不条理さに気づくはずだから」
そういってウェスタはニッコリと前方を歩くイリアに微笑みかけたのだった。