暴食の村 6
「……はぁ。助かった」
村長の家からしばらく離れた所で、イリアは座り込んで大きくため息をついた。
「まったく……俺達がいなかったらコイツ、あの村長に食われてたんじゃねぇの?」
思わず呆れ気味に俺はそう言ってしまった。
「うん。まさにそのとおりだよ」
それに対して、さらっと、ウェスタがそう口走った。
「え……ま、マジで?」
「うん。あの村長は、村人全員を食べたんだ。その後はイリアみたいに村を訪れる旅人を牢屋に閉じ込めた後、身動き出来ないようにして、少しずつ食べていく……恐ろしいね」
ウェスタは淡々とそう言った。俺はウェスタの言ったことが信じられなかった。
「え……嘘だろ?」
「嘘じゃないよ。神様が嘘ついてどうするのさ」
ウェスタは悲しそうにそう言った。そして、目を細めてイリアを見る。
「でも……イリアはそのことに気づけなかった。見てみなよ」
と、ウェスタの言うように、俺はイリアを見る。
すると、イリアはランタンの炎に向かってなにやら祈りを唱えているようだった。
「女神ウェスタよ……邪神を崇める哀れな老人は、改宗を拒みました……しかし、これは老人が選んだ選択なのです……私は、次なる巡礼地に向かいます」
「え……アイツ、あの爺さんが改宗を拒んだって……」
俺は思わず呆れてそう言葉を発してしまった。
「うん。でも、イリアに罪はない。あくまで彼女は巡礼を進めていくことこそが、ウェスタの聖女としての努めだと思っているからね」
「で、でもよ。巡礼先で異教徒を改宗させなくていいのかよ?」
「ウェスタ教は、ニト教をはなから邪教だと思っているからね。その信者は、蛮族か何かだと思っている。最初から話しあおうなんて思ってないのさ」
ウェスタはそう言って、再び悲しそうな顔で祈りを捧げるイリアを見ていた。