暴食の村 1
そして、次の日。
「おお……ここか」
イリアが足を止めた。
見ると、前方には小さな村のような家々の集合体が見える。
「……ここが、巡礼地?」
俺は思わずウェスタを見る。
「そう。ここが彼女の最初の巡礼地だ」
ウェスタはチラリとイリアの方を見る。俺も同様にイリアを見ると、イリアは気を引き締めようとしているようで、顔をこわばらせて村の方の道を歩いて行った。
「しかし、どう見てもただの村みたいだけど、ウェスタ教にとって何か特別な場所なのか?」
「いや……ウェスタ教にとっては聖地どころか、むしろ汚れた土地だね」
「はぁ? じゃあ、なんでそんな所に巡礼なんてするんだよ」
「それが、ウェスタの聖女の使命だからさ」
ウェスタとの会話は相変らず要領を得なかった。それでも俺は仕方なく、そのままイリアの後をついて、村へと向かっていった。
村の入り口まで来ると俺達は少し異変に気付いた。
「……なんか、人気がないな」
パッと見た感じだったが、村の中に人がいるような気配が感じられなかった。
「そうだね……なんだか嫌な感じだ」
ウェスタも同様に感じたらしい。それにも拘らず、イリアは平然として村の中に入っていく。
「すまない! 誰かいないのか?」
そして、村の中心部までやってきて大きな声で叫んだ。
「はい……? なんでしょうか……?」
と、どこからかか細い声が聞こえて来た。俺とウェスタも同時に声のした方に顔を向ける。
「ああ……すまない。私はウェスタの聖女だ。ここはリンボ村……だよな?」
イリアが声の下方に向かって訊ねると、村の一番大きな家の中から、1つの人影が現れた。
「うお……マジかよ……」
現れた人影を見て、俺は思わず戸惑ってしまった。
骨に人の革を貼り付けたというのはまさにこのことを言うのだろう。ガリガリの老人がよろよろとよろめきながら家の中から出てきたのである。
「聖女様……ですか……」
「あ、ああ……そうだ。お前は?」
イリアも老人の風体に少し戸惑ってしまったらしい。ウェスタだけが動じない様子で老人とイリアを見ている。
「わ、私は……メルクリウスといいます……この村の村長です……」
村長は震え声でなんとかそう自己紹介した。
今にもそのままぶっ倒れてもおかしくない様子である。
「そ、そうか……その……私はこの村に巡礼目的でやってきた。この村はニト教を崇拝していたな?」
「……ニト教?」
俺は思わずウェスタを見た。ウェスタは気まずそうに俺から目を逸らした。
「は……はい。この世界の創造神ニト様を、村人一同信奉しておりました……」
「そうか。だが、ニト教は邪教だ。ウェスタ教会では、ニト教に対して救済を行うためにニト教への信仰の中心となっている場所、人物似対し、ウェスタの聖女が巡礼を行うことにしたのだ」
俺はイリアの言葉を聞いてなんとなく状況がわかったような気がした。
「……つまり、俺を信奉する宗教は、この世界では邪教になっている、と」
「あ……あはは。そ、その……ホントにごめん! 僕も予想できなかったんだ……」
頭を下げて謝るウェスタ。まぁ……なんとなくこんなことになっているのではないかという予想はついていたので、怒る気にはなれなかった。