聖女の理由
「……で、なんでコイツがその聖女とやらに選ばれたんだ?」
「そりゃあ、魔法が使えるからさ」
「……だから、どんな魔法が使えるんだよ?」
「イリアは……神の言葉を聞くことができるとされているんだ」
「え……な、何それ? それが……魔法?」
「うん。この世界で僕達の声を聞くことができる唯一の存在なんだ。立派な魔法使いだよ」
自慢気にそういうウェスタ。俺は愕然としてしまった。
つまり、火炎魔法や氷結魔法とか、そういうド派手な魔法は使えないってことか……
「え……ちょっと待てよ。つまり、この世界での魔法ってのは、そういう地味な魔法だけなのか?」
「うん。少なくともウェスタ教が信仰されている地域に限ってはそういう魔法だけだね」
俺は思わず大きくため息をついてしまった。そして、チラリとイリアの方を見る。
なぜかイリアは嬉しそうに口元をゆるめて、よだれを垂らしていた。
一週間背後霊のようにくっついていると、こういう光景を何度か見ることが出来た。見てしまったからこそ、コイツはどう考えても聖女だとは思えないのである。
「……ったく、大体、コイツには俺達の声が聞こえてないだろうが」
「いや、聞こえているよ。でも、未だに彼女は僕達の声を認識していないんだ。だから、彼女は僕達の存在を感じながらも、それを認識することができないわけだね」
本当にそうなのかと疑いたくなってしまったが、確かにここ数日、イリアは俺達の気配を察してか、周囲をキョロキョロと見たりする事は何回かあった。
だからといって、本当に俺達の声を聞くことが出来るのかどうかは、俺にさえわからない。
「……まぁ、いいや。明日、本当に巡礼の地に着くんだよな?」
「うん。大丈夫。巡礼の地に着けば、イリアが聖女だってことがわかるはずだよ」
ウェスタはそう言ってニコニコと微笑んだ。いつも笑っているこの女神は、どうにも信用出来ない気がしてきた。
ここは、俺が神として今一度世界をしっかり管理しなければならない……だらしないイリアの寝顔を見ながら俺はそう思ったのだった。