聖女の使命
それから、しばらく……といっても、一週間くらい、イリアは歩きっぱなしだった。
俺達も同様に歩き続けたが、ウェスタの言う通り、まったく疲れることはなかったそれどころか眠くなることもなく、腹がへることもなかった。
どうやら、神様に転生したことで、人間的にそういう苦労はしなくて良くなっているらしい。
だからといって、さすがに前を行く女騎士の後をついていくだけというのは俺としても納得出来ない。
「……なぁ。いつになったら一つ目の巡礼地とやらにつくんだよ?」
野宿をするイリアのすぐ側で、俺はウェスタにそう言った。
「そうだねぇ……明日の朝には着くんじゃないかな?」
ウェスタはイリアのすぐ側に置かれたランタンを見ながら、俺の質問に堪える。
「……明日の朝ねぇ……ったく。大体コイツはなんで巡礼の旅なんてさせられているんだよ。しかも、たった一人で。なんかの罰ゲームかよ?」
「罰ゲーム……うーん。まぁ、そんな感じかなぁ。彼女は聖女だから」
「……聖女って、なんだよ。何かしてくれるのか?」
「うん。聖女は皆を救ってくれる存在……要するに神の使い、みたいなものかな?」
「ふぅ~ん……救うって……この世界、救いが必要なわけ? それとも、宗教的な意味での救い?」
「う~ん……どっちも、かな」
俺がそう訊くと、ウェスタは申し訳無さそうに小さくそう呟いた。。
「え……ちょ、ちょっと待てよ。俺達、この世界が平和になるように設定を考えたはずだよな? それなのに、なんでそんなことに?」
「あ、あはは……その……やっぱり神話を創ったのは間違いだったみたいだね……」
「はぁ? 神話……なんでだよ?」
「いや……実際神話を元にこの世界の人達は団結したんだけど……君が生きていた世界同様、派閥ができちゃってね……現在この世界は大きく2つの宗教に別れて争っているんだよ」
「争っているって……戦争中ってことか?」
「いや、戦争まではいかない。冷戦状態、っていうのかな? まぁ、とにかくあんまり良い状態じゃないんだ。で、ウェスタ教では、ウェスタの聖女なる存在を、多くの少女の中から選び出して、その子に巡礼の旅をさせることで、対立する邪教の信者たちを改心させようとしているんだね」
「……つまり、このイリアが、選ばれたウェスタの聖女ってことか。っていうか、お前そういうこと知っているなら全部教えろよ。俺だって神なんだから、不平等じゃないか」
「あ、あはは……聞かれなかったら言わなかったんだ……ごめんね」
なんだかウェスタは本気で謝っているのか微妙なところである。まだ俺に何か隠し事がありそうな気がする。
「う、う~ん……うるさいぞ……むにゃ……」
と、いきなりイリアの寝言が聞こえて来たので、俺とウェスタは同時にイリアの方を見た。
確かに金髪の美人な女の子だが……コイツが聖女ってのはちょっと納得出来なかった。