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異世界の神様事情 3

「入りなさい。聖女よ」


 祭壇に立っていた神祇官が、扉の方に向かって叫んだ。


 大聖堂に入ってきたのは、一人の女の子だった。


 金色の髪に、緑色の瞳……まるで、神様が特別扱いしたようにして創ったのではないかと思うくらいに、綺麗に整った容姿の女の子だった。


 しかし、格好はどこか変だった。上半身は鉄製の胸当てを装備している。重装備なのかと思うと、下半身はロングスカートと、なんだかアンバラスである。


「神祇官様。聖女イリア。ただいま参りました」


 予想外に低いハスキーボイスでそう言うと、女の子は神祇官の前まで歩いて行き、そのままそこに跪いた。


「イリア。よく来てくれました。今日は伝道の旅の始まりの日ですね。調子の方はどうですか?」


「はい。神の祝福により、万事整っております。今すぐにでも、邪教を信じる救われない人々に、真の神の教えを説くことができると思います」


「……邪教?」


「あ、あはは……ま、まぁ、そういう宗教も存在するみたいだね……」


 なんだかひっかかり言い方をするウェスタ。そんなことよりも、俺は目の前の美しい少女に見とれてしまっていた。


 最初は変な格好だと思ったが、なるほど。これは女騎士の格好だ。


 中世ファンタジーに欠かせないキャラクターの格好をしているのだと考えれば、この子の存在にも納得がいく。


「では、イリアよ。アナタに女神ウェスタの祝福を授けます」


 すると、神祇官が片腕を上げる。それからすぐに、一人の使用人のような男性が、何かを持ってきて走ってきた。


「女神ウェスタの聖炎です。受け取りなさい」


 そういって神祇官がイリアに渡したのは、ランタンだった。ガラスの中には煌々とオレンジ色の炎が燃え盛っている。


「ありがとうございます……では、神祇官様。行って参ります」


 イリアはそういって神祇官に背を向けた。


「……え? 今のって何?」


「うーん……どうやら、ウェスタ教のご神体は炎みたいだね」


「炎……ああ。だから、シンボルが炎の形なのか……」


 俺は大聖堂内部をもう一度見渡してみる。確かに、先ほどと同じようなシンボルが大聖堂内部にもいたるところに存在している。


「……で、アイツは一体何をしに行こうとしているわけ?」


「え? ああ、イリアね。彼女は、今から巡礼の旅に出たんだよ」


「巡礼? アイツ、シスターか何かなのか?」


「シスター……そうだね。君が生きていた世界でのシスターや巫女と同じような存在だ。彼女はこのウェスタ教の総本山の命令を受けて、今から7つの場所に巡礼に向かったんだよ」


「7つ? 随分とたくさんあるなぁ……で、アイツは魔法を使えるのか?」


「まぁ……使えると言えば使えるみたいな感じかなぁ……」


「はぁ? なんじゃそりゃ……」


 あまりにもウェスタの言うことが要領を得ないので、俺は半ば呆れてしまった。


「っていうか……俺達のこと、アイツ等完全に無視してたよな……」


「あはは。そりゃあそうさ。僕達は神様だよ? 普通の人間には姿は見えない。もちろん、僕達が姿を見せようと思えば、見せることも出来るよ」


「へぇ……まぁ、いいや。他の所も見てみたいぜ、案内してくれよ」


 俺がそういうと、ウェスタはキョトンとした顔をした。


「何を言っているんだい? 僕達もイリアの旅に同行するんだよ?」


「……へ?」


 俺は思わず間抜けにそう声を漏らしてしまったのだった。

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