異世界の神様事情 2
大聖堂の中は広大な空間が広がっていた。その作りは写真とかで見るヨーロッパの大聖堂の内部とよく似ている。
しかし、やはりそのシンボルは燃え盛る炎の形だ。何か意味があるのだろうか……
「さて、さっきまで寝ていた神様にこの世界の簡単な話をするね。この街はこの世界の中心都市アムリウス。多くの人が住んでいて、商売も盛んに行なわれている。ただ、それ以上にこの世界にとって重要な場所なんだ」
「重要な……場所?」
「そう。それがこの大聖堂だ。ここで女神ウェスタに祈りを捧げるために多くの人が世界中から集まってくる……僕達の予想通り、この世界では神様に対する信仰はものすごく強いものになったんだよ」
「なるほど、女神ウェスタねぇ……ん? ちょっと待て。俺は?」
それを訊くと、ウェスタはギクッと一瞬顔をこわばらせ、俺から視線を逸らした。
「おい、ウェスタ。俺は神様として崇められていないのかよ?」
「え、えっと……あはは……ニト君。その……なんというか、僕にも予想外の出来事というものがあってね……」
「はぁ? おい、どういうことだよ。説明して――」
そこまで俺が言おうとした時だった。いきなりゴォンゴォンと大きな鐘の音が聞こえてきた。
「あ。鐘の音だ。どうやら、始まるみたいだね」
「始まる? 何が?」
俺が訊ねるとウェスタは目を片方だけ閉じてウィンクした。
「それは、はじまってからのお楽しみだよ。ニト君」
すると、鐘の音が鳴ると同時に、その場にいた大聖堂の中にいた多くの人々は慌てて出て行ってしまった。
てっきり礼拝でも始まるのかと思ったが、どうやらそうではないようである。
大聖堂の中に誰もいなくなった頃、前方の祭壇に、ゆったりとした服を身にまとった、白髪混じりの初老の男性がいきなり現れた。
「彼は神祇官。この国でもっとも権威のあるウェスタ教の神官だよ」
「へぇ……もしかして、アイツが魔法が使えるのか?」
思い出したように俺は魔法の存在を訊ねた。しかし、ウェスタは首を横に振った。
「残念だけど……この世界で魔法が使えるのは処女だけなんだ」
「……へ? 処女?」
「うん。その中でも特別な女の子だけなんだ。だから、そもそも男性は魔法を使えないんだよね……」
「お、おいおい。ちょっと待てよ。そんな設定、俺考えてないぞ?」
「あはは……そうだねぇ。僕としても、まさかこんな風に設定が勝手に付け加えられていくなんて思わなかったよ」
苦笑いするウェスタ。どうやら、神が知らぬ間に、世界での設定が勝手に追加されてしまったらしい。
つまり、この世界では男の魔法使いが強大な魔力を使って戦い合うなんていう光景は見られないことになる……なんだか少し残念である。
「……まぁ、いいや。で、魔法を使える処女っていうのはどこにいるんだよ?」
「ああ。それならもうすぐ……あ。来たみたいだね」
ウェスタがそう言うと、大聖堂の扉が開いた。




