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額面通りの神様転生  作者: 白波
第一章 ようこそ神界へ
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服を買うために

 バスの中で見たのと変わらず神界の町は活気にあふれていた。

 たくさんの人(神?)が我が物顔で闊歩し、遠くの方にそびえるビルやドームが背景にあるとはいえ、目の前に広がっているのは、木造の建物に瓦屋根とうった。時代劇で見るような街並みだ。しかし、その町を歩く人々に視線を向けてみると、様々な文化が入り乱れているということを簡単に理解できた。


「この町は異世界と異世界をつなぐ転生庁がある関係でありとあらゆる文化が入り乱れている町です。これだけごちゃごちゃとしている町は神界広しと言えどもこの町ぐらいでしょう」

「ふーん。そうなんだ。ということは他の町はどうなの?」

「そうですね。他の町にはあまり言ったことがありませんけれど、少し気を抜いたら同じ意味の言葉であふれかえるといわれているこの町ほど文化が入り乱れているってことはないと思います。なんと言ったらいいのか……統一感があるというかそんな感じでしょうか?」


 和服を着た人から、騎士の格好をした人、果ては魔女風の服を来た人など老若男女様々な人々が入り乱れている中で、ボクの手を引き歩く女神はそういった後も悩んでいるような表情で唸り声をあげる。


「どうかしたの?」

「いえ、言ってみたものの一概にそう言っていいかどうか迷いがありまして……その……この町の中で多くの文化が入り乱れているのは事実としてもそれがほかの町に言えないのかと聞かれると微妙なところというかなんというか……」

「いや、まぁいいよ。大丈夫だから」

「しかしですよ。情報が足りないというのはあなたでは……」


 彼女の言葉を聞いてボクはようやく彼女が悩んでいる理由を理解することができた。

 どうやら、彼女自身情報をきちんと伝えられなかったことについて相当悩んでいたということなのだろう。

 ボクは彼女の手をつかんでくいっと引っ張る。


 女神はその行動の意図を察したのか視線を合わせるように目の前に屈みこんだ。


 ボクは手の届く範囲に来た頭の上にポンと手を置く。


「大丈夫。まったく、本当に必要な情報とそうじゃない情報との区別もつかないの?」

「えっいや、それぐらいつくわよ! あっあなたが情報が足りないっていうからそうしているだけじゃない!」


 どうやら、ボクの指摘は図星だったようで女神はリンゴのように顔を真っ赤にさせながらこちらを指差している。

 ボクはそれに気づかないようなふりをして小さくため息をつくと彼女から視線をそらす。


「まぁそれもそうだよね。そういうわけで必要最低限の情報だけでいいから。必要なのに足りないっていうのだけはやめてくれると助かるっていうぐらいの話だし」

「そうですか。わかりました。それではもう少し気を付けてみようと思います」

「そうしてくれると助かるよ」


 ボクがそういうと、女神はうんうんと二回ほどうなづいて立ち上がった。


「さて、行きましょうか」


 女神は再びボクの手を引いて歩き出した。

 その表情はとても楽しそうで、うれしくてたまらないという様子だ。


「さて、どこから行きましょうか? 転生庁はどうせ後でも行きますから観光名所がいいですね。あと、生活に必要な場所……そう考えると、商店街と診療所は外せませんね」


 彼女の頭の中では徐々にプランが組み立てられつつあるのか、あそこへ行こうとかそこへ行こうとかブツブツとつぶやいている。

 町の案内というだけで見るべきところがそれだけ多いということなのだろう。


 女神はボクの手を握る力を強めて人ごみの中を進んでいく。

 ボクはボクで気を抜いたらすぐに女神を見失ってしまいそうなので必死に彼女の手をつかんでついていく。


 前に子供が迷子になるのは勝手に親から離れていくからだと思っていたが、こうして子供視点で人ごみの中に入っていくと、必ずしもそうではないということが理解できる。

 女神の背がやや低めということも相まって、少し目を離した途端に彼女の姿を見失ってしまうだろう。


 彼女はというと、こちらの中身が高校生だからかこちらを見たり、声をかけたりという配慮はせずにぐんぐんと手を引っ張っていくだけだ。


「ねっちょっと! 早い!」


 しかし、いくら気を付けてもどうにもならない問題はある。

 まずは歩幅の問題だ。


 女神は小柄とはいえ大人なので歩幅は子供の体であるボクに比べて確実に大きい。

 それなのに女神は歩調を落とすどころかむしろ、速足で歩いていくのだ。


 ボクの声は人ごみの中に飲み込まれて言ってしまうのだが、再三にわたり必死に目の前を歩く女神に声をかける。

 しばらくすると、ようやく女神はボクの声に気が付いたのか立ち止まってこちらを振り向いた。


 彼女は道のど真ん中では話ができないと判断したようでボクの手を引いたまま道路わきに設置してあるベンチに座った。


「レイちゃん。どうしました?」

「早いって……こっちはあまりさ、歩幅がほら……小さいじゃん」


 ボクがそういうと、女神はどこか納得したようにうなづいた。

 その様子を見る限り、予想通り彼女はこちらの歩幅に合わせるということを完全に失念していたらしい。


「まぁいいけどさ。とりあえず、迷子になりたくないからちゃんとしてよね」

「迷子ね……まぁそれもそうかもしれませんが、迷子になっても何とかなりますよ」

「なんとかってさ……」

「大丈夫です。そういう仕組みになっていますから」


 彼女はそう言って笑みを浮かべて、ボクの頭をなでる。


「そういう仕組みって?」

「まぁお世話にならない方がいいでしょうから話す必要はないでしょう。それじゃ、行きましょうか」


 女神は何度か頭をなでた後に再び手を引いて人ごみの中へと向かっていく。

 その歩調は先ほどよりもゆっくりなもので、こちらへの配慮をうかがうことができた。それでも速かったが……


 結局、目的地に着くまでずっと、彼女の背中を必死に追いかけていくことになるのだった。




 *




 町の中心街にある商店街。

 木造の商店が並ぶその通りは、先ほどまで歩いていた大通り以上の活気があり、たくさんの商品が売り買いされているのが遠目にも理解できた。


「どこへ行くの?」

「えっ? あぁとりあえず、案内を兼ねて服屋に行こうと思っています。さすがにゴスロリだけではつまらないので」

「つまらないって……まぁ他に服が買えるならいいや」


 ここで下手に反論して状況が悪くなっても困る。まぁあまり多くの服を買ってもらおうとは思わないが、少しでも今のような恰好を避けるような方向に行くしかない。


 女神は鼻歌でも歌いだしそうな上機嫌な様子で大通りを歩いていく。


 若干……というよりもかなり嫌な予感がしなくもないのだが、それでもそれを気にしないようにしながらボクは女神の背中を追いかけるようにして商店街の奥へと進んでいく。


「服屋ってどのあたりにあるの?」

「この商店街の奥の奥の奥ぐらい……この通りの向こう側から入ると一番最初にあるお店ですね」

「それって結構遠い?」

「そうね。確かにかなり遠いわね」


 彼女はこちらを見ないまま人ごみの中を進んでいく。

 その様子を見る限り、彼女はかなり急いでいるようでとにかく、先に進みたいという感情が読み取れる。


 おそらく、彼女はかなり時間に余裕のない計画を立てているのだろう。


 行きにバスが一日一往復と言っていたことからそれを少しでもずらすわけには行かないのだろう。きっとそうだと信じたい。一日中町を歩いた後に歩いて家に帰りますという言われるのはさすがにきついものがある。


 そう考えると、女神の言う通りにするのが最善の方法だろう。


 ボクは女神から離れないようにと気を付けながら商店街の奥へと進んでいった。




 *




 商店街の奥の奥の奥……自分たちが入った方から見て反対側から入った場合の入口。

 立派な構えの服屋の店内には普通のシャツから変わった服まで多種多様な服が並んでいる。


 女神は店内の棚に陳列された服を見て、小さく唸り声をあげる。


 ボクも彼女と一緒になって陳列されている服を選ぶ。


 なるべくボーイッシュな服をと選んでいるボクの肩がポンポンと叩かれる。


「レイちゃん!」

「なに?」

「これなんかどうかしら?」


 女神に声をかけられて振り向いたボクは、彼女が持っている服を見て、その体勢のまま動きを止めてしまった。


「どうしたの?」

「えっと……それは……」

「巫女服だけど? うん。ゴスロリよりこっちの方が似合いそうだから。脇が開いているのといないのとあるけれどどっちがいい?」


 彼女は二着の巫女服を手に持ってこちらに迫ってくる。

 ボクはそれに押されるようにして後ずさりしてしまうが、彼女は笑顔のままどんどんとこちらへ近づいてきて、気づけば壁際まで追いやられてしまった。


「いや、さすがにそれは……」

「何を言っているのですか! 黒髪! 童顔! というより幼女! これは巫女服は外せません!」

「外していいから! 頼むから普通の服にしてくれ!」

「私の辞書に普通という言葉はありません!」


 いくら必死に懇願しても女神は聞く気配を見せない。

 彼女は二着の巫女服をボクの眼前に持ってきて、それを押し付ける。


「ほら! 脇あり巫女服と脇なし巫女服! どっちか選んで!」

「選べるか! 大体、神様が巫女服着るってどういうことだよ!」

「ありえない話じゃないでしょう? それに私の助手をする時だけでいいから! ここはほら、仕事着だと思えば着れるでしょ?」


 女神は巫女服を二着とも左わきに抱え、右手をボクの顔のすぐ横の壁につける。


 簡潔に言えば、いわゆる壁ドンだ。こんなにドキドキしない壁ドンはないだろうと思うほどドキドキしない壁ドンであるが……


「それで? どっちがいいの?」


 返事を……いや、どちらかを選ぶまで聞くまで逃がす気はないといわんばかりに彼女は顔を近づけてくる。


「どっち? 早く選んで」

「いや、そう言われてもね……ほらさ、えっと……どうしよう」


 選ぶにしてもどうしろというのだろうか?

 やはり、ここは普通に脇がある巫女服を選ぶべきだろう。そもそも、脇の巫女服ってなんだ。色もおめでたい紅白だし妖怪退治でもしろというのだろうか? さすがに髪型的な問題でそれを着たら即そうなるというわけではないし、顔立ち的にもまんまそっくりになることはないと思うが……


「あっあのさ……」


 とりあえず、ちゃんとした方と言おうとしたのをさえぎるように女神がポンと手をたたいた。


「そうだ! どうせ洗濯とかするでしょうし、二着買えばいいじゃない!」


 遅かった。選ぶのに時間をかけすぎて女神がとんでもない発想に至ってしまった。


 もちろん、仕事着が二着以上ないといけないというのは納得できる。いや、それ以前に金髪長髪に青い瞳で白い神官服に身を包んでいる女神と黒髪短髪、黒い瞳で巫女服を着た幼女が並ぶ風景というのはどう考えても異様な気がする。

 そうだ。この理由で押し通せば!


「ねぇ!」


 考えをまとめて、女神に話しかけるころには目の前から女神の姿は消えていた。


 急いで店内を見回すと、女神はすでに会計をしていて、巫女服二着を袋に包んでいてもらっていた。


 ボクは女神の下へと駆け寄るが、時は遅すぎてバカでもわかるほど手遅れだった。


「あぁ会計は済ませましたよ。お金は私が出すので安心してください」


 ボクの心情などお構いなしだといわんばかりに彼女は笑顔でそう告げた。

 それに対して、ボクは何もすることもできずにただただうなだれる。


「さて、この調子で生活必需品を集めていきましょう!」


 女神は元気よけ歩きだし、ボクはそれに引きずられるような形で服屋を後にした。

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