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額面通りの神様転生  作者: 白波
第七章 桜子
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転生庁に到着してからの行動について

 転生庁に到着した後、真っ先にボクたちを出迎えてくれたのは桜子だった。

 彼女は甘雨から荷物を受け取ると、そのままボクたち一行を誘導するような形で建物の中に入っていく。


 このとき、甘雨とクロはこっそりと背を向けて帰ろうとしていたのだが、女神に呼び止められておとなしくついて来ることになった。

 いい加減開放してもいいのではないかと思うのだが、下手に女神を刺激してもいけないので、ボクは二宮金次郎像のように桜子が預かった荷物の一部を抱え、本を読みながら転生庁の廊下を歩く。


 しばらくの間、周囲には一行が歩く足音だけが響いていたのだが、道のりの半分ぐらいまで行ったとき、女神が思い出したように口を開いた。


「そういえば桜子さん。私が頼んだ調査はやっていただきましたか?」

「……日計(ひばかり)六花(りっか)のことですか? えぇ。それなら、転生庁所属の図書館司書として閻魔庁に赴いて調査をしました。その報告書も用意してあります」

「そうですか。ありがとうございます」


 日計六花といえば閻魔庁に所属している閻魔にして、女神の幼馴染の少女だ。そんな彼女の名前と調査という言葉が並んだことにたいして、ボクは少なからず驚いた。

 なぜ、女神が彼女のことを調査しているのかと聞きそうになったが、冷静に考えてみれば、わざわざ首を突っ込む必要もないので、本に目を落としたままその会話を聞かなかったことにする。


 それにしてもだ。そんな重要そうな話をよくただの廊下で、しかも甘雨とクロ(部外者)の前でできるものだ。


 二人の様子を見る限り、話そのものが聞こえていないのか、そもそも、日計六花とあの閻魔が同一人物だという認識はないようだが、それでも転生庁が閻魔庁に探りをいれているという情報が下手な形で伝われば、女神の真意はどうであれ、妙な誤解を生みかねない。


「日計六花とは誰でしょうか?」

「余分なことをしゃべるな」


 そんなボクの心配を肯定するような会話が背後から聞こえてくる。それもあまりよくない方向に行っているようだ。

 こうなってくるとますます女神の考えがわからない。そもそも、甘雨とクロを転生庁の建屋にわざわざ入れた理由は何なのだろうか? すでに彼らの仕事は終わっているはずだし、女神の態度からしてどう考えても二人に対していい印象を持っているようには感じられない。


「レイちゃん」


 本に目を落としたまま考え事をしていたその時、すぐ前を歩く女神から声がかかる。


「なに?」

「買い物ありがとうございました。いろいろとトラブルはあったようですけれど、少しのタイムロスだけできっちりと買い物を終えることができました。休憩室に戻ったら桜子やそこにいる甘雨と一緒にちょっとしたものを作ってもらうので今日の仕事は終わりでかまいません。まぁトラブルがなければもっと早く言っていたのですが……」


 甘雨にやや厳しい視線を送った後、女神は再び視線をボクの方へと戻す。

 その表情はすっかりと穏やかなものになっていた。


 ボクは本をぱたんと閉じて女神の方を見る。


「レイちゃん。手伝ってくれますよね?」

「えっうん、もちろんやるよ。それで何を作るの?」

「ふふっそれは休憩室についてからのお楽しみですよ」


 つい数十分までおっかない表情を浮かべていた人物と同じとは思えないほど穏やかな表情の女神を見て、ボクはこっそりと胸をなでおろす。

 女神の機嫌がなかなか直らなかったのでかなりひやひやしていたのだが、この様子なら大丈夫そうだ。


 それにしても、自然な流れで手伝わされる流れになっている甘雨が若干かわいそうになってきたが、それに関しては口にしない方がいいだろう。それのせいで再び女神の機嫌が悪くなるようなことがあってはならないし、そうなってしまったらボクの精神衛生上よろしくない。


「まぁすべてが材料というわけではないですけれどね。生活用品やらその他もろもろも混じっていますのでそう言った意味でも助かりました。どうも、最近は備品が不足しがちでしたので……さて、それでは早く休憩室へと向かいましょうか」


 女神はどこか楽しそうにそういうと、鼻歌を歌いながら歩き始める。


 それにしても、喫茶店を出るときはちゃんと仕事をしてほしいみたいなことを言っていたのに、今はそうはせずに何かしらの準備の手伝いをしてくれと言っている。話がコロコロと変わっているような気もするが、なんだかそれはそれで彼女らしいと思えてくる。


「レイちゃん? どうしましたか?」

「えっ?」

「いえ、何やら笑っているようでしたので……何かおかしいですか?」


 いつの間にか笑みを浮かべていたらしい。

 不思議そうに首をかしげている女神に対して、ボクはただ“なんとなく”と答える。


 女神は一瞬、目を見開いた後小さく息を吐いてから、ボクと同じように笑みを浮かべた。


「そうですか。そういえば、レイちゃん。今日商店街に行くときにですね……」


 そのあとはいつもと同じような他愛のない雑談が始まり、気が付けば桜子や甘雨もそれに加わっていた。

 転生庁の廊下はいつもと違い四人と一匹の声で少し騒がしくなる。


 いつもはとても静かなこの場所だが、今日ばかりは人が多く少し騒がしい。でも、なんだかそれが不思議と心地よかった。

 そうしているうちに一行はあっという間に休憩室に到着した。




 *



「レイさん。そっちにある木材。取ってくれません?」

「はいはい。今行くよ」


 甘雨に呼ばれてボクは手元にあった木材をもって立ち上がる。

 休憩室に到着した後、ボクたちは女神の指示で作業に取り掛かっていた。


 木材を切り、事前に用意されていた綿を布に詰めたりといった具合にだ。

 女神はといえば、少し離れたところで鼻歌まじりにプレゼントの装飾をしている。


 今、何の準備をしているのかといえば日計六花の誕生日会の準備だ。

 なぜ、転生庁の休憩室なのかだとか、プレゼントに何が大切かという調査に人員を割いたうえで報告書まで作らせているのかという疑問は残るが、それだけ女神が本気なのだということだろう……たぶん。


「それにしても、まさか知らない人の誕生日会の手伝いをすることになるとは……」


 そんなことをしみじみと考えているボクの横で悲壮に満ちたつぶやきが聞こえてくる。

 その声の正体は探るまでもない。仕事をとりたくて町を歩いている人に声をかけた逆につかまり、なんだかんだで手伝わされている甘雨だ。


 彼女からすれば、変な客につかまり強制ボランティアをさせられているようなものだから当然と言えば当然の反応なのかもしれないが、もしもそれが女神の耳に届いてしまったらどうしようかなどとは考えないのだろうか? というよりも、女神のすぐ横にいる桜子が彼女の発言のすぐ後に苦笑いを浮かべたあたり、女神にも聞こえている可能性が高い。ただ、女神の表情は変わらないのでそのあたりの真意は全くつかむことができないのだが……


「甘雨。発言に気を付けろ」


 そんな甘雨にクロがそんなことをささやいている。といっても、ボクの耳にちゃんと届く程度の声量である。

 そんな一人と一匹の会話を聞きながらボクはひたすら作業の手を進める。


 誕生日会まで多少の時間があるので休み休みやってもいいのかもしれないが、ボクとしても今日の商店街での出来事に関しては多少思うところがあるので普段よりも真剣な態度で作業に臨んでいる。もちろん、普段が真剣じゃないかと聞かれればそうではないと答える自信はある。


「さて、桜子。次はどうしますか?」

「そうですね。せっかくなんでメッセージカードでも作ったらどうですか?」

「あぁそれはいいですね。そうしましょう」


 どことなく雰囲気が思い甘雨とクロに対して桜子と女神はとても楽しそうだ。


「レイさん。そこにあるペンを持ってきてください」

「はいはい。今行くよ」


 ボクは近くにあったペンを手に持って甘雨の方へと歩み寄る。

 そのまま甘雨にペンを渡した後、ボクはふと思った。


 どうして、彼女の言うままに動いているのだろうか? という疑問だ。


 念のために言っておくが、ボクはちょっと物をとってほしいと頼まれたぐらいで嫌な思いをするほど小さな人間ではない。

 だが、先ほどからどうも甘雨に何かを頼まれて動くという状況が多いような気がする。


「ねぇ甘雨。さっきからボクばっかり動いているのは気のせい?」

「えっ? そうかしら? それは気のせいじゃないの?」


 ただ、すこしだけ気になったのでその疑問を甘雨にぶつけてみたのだが、彼女は涼しい顔でその可能性を否定する。

 ボクとしてはもう少し追及してもよかったのだが、そんなことをして時間を浪費するのもよくないだろう。


 そう判断したボクは小さくため息をついたあとに作業に戻る。


「レイさん。何か必要なものとかある?」

「それじゃ鋏をとってもらってもいい?」


 ただし、その会話のあと甘雨が自分で道具を取りに行くようになったので、ボクの一言はある程度の効果を発揮することができたようだ。


 そのあとも時々会話を交わしながら準備を進め、夜になるころには誕生日会の会場の準備を終え、六花の到着を待つのみという状況まで持っていくことができた。

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