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額面通りの神様転生  作者: 白波
第一章 ようこそ神界へ
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自己紹介をするために

 家を出てから約三十分。

 女神とボクはひたすら森の中の道を歩いていた。


 どうやら、女神の家はかなり町はずれに建っているらしく、家の周りもこれまでの道もすべて森の中だ。


 それもこれまで歩いてきた道はあまり使う人がいないようで、道の両脇には生い茂った雑草が道を覆い隠そうな勢いで迫ってきていて、場所によっては完全に草で覆われてしまっている。まさに獣道という言葉がぴったりなその道を女神は何の躊躇もせずに歩いていく。


 ずっと、このような道が続いているので本当にこの先に町などあるのだろうかと疑問を持っていしまうのだが、女神が家に住んでいる以上、他の神様もどこかに家を建てて住んでいるわけで、それらが集まる場所があっても不自然ではないだろう。


「あの……まだなの?」

「えっあぁ町までですか? もう少しでつきますよ」


 もうすぐという割には周りはうっそうと生い茂った森のままだ。


 本当に町などあるのだろうか?


 改めて、そんな疑問を持ったその時、女神がこちらを振り向いてニコリと笑顔を浮かべた。


「ようやく森を抜けました。町は目の前です」


 彼女の言葉通り、女神が立つ背後から漏れる光は森の中に比べて明るく、出口が目の前であると認識できた。

 彼女に促されるような形でボクは女神の横を抜けて一足早く森の外へ出る。


「……すごい」


 森を出て、真っ先に目に飛び込んできたそこの先に広がる風景は素晴らしいものだった。

 ちょうど、高台となっているこの場所からはその下に広がる町を一望できた。


 瓦屋根の木造建築の建物が所狭しと並び、長屋などが多くみられる一方で町の中心には巨大な白いドームがある。

 ドームの周りにはいくつかのビルも見受けられ、それらはきれいに木造建築の街並みに溶け込んでいる。


「これが神界の町……その中心に立っているドームがあなたの仕事場になる転生庁の建物です。もっとも、町はここ一つではありませんしけれど……さて、高台から街を俯瞰したところで下へ降りましょうか」


 いつの間にか横に立っていた女神は高台の端に立つとボクの手を引いて崖の方へと歩き始める。


「えっちょっと?」

「歩いて下まで降りると遠回りなのよ。近道と練習も兼ねて、飛んでいきましょうか。いずれ、あなたにも習得してもらわないといけませんから」

「えっ? 飛ぶって?」

「そのままの意味です。街中は飛行禁止ですけれど、ここは問題ないので……女神! いっきまーす!」


 困惑するボクをよそに彼女は崖の下へ向けて飛び降りた。もちろん、手を引いたまま。


 女神は飛べるなどと言っていたが、そのような気配は全くない。重力に逆らうことなく二人の体はドンドンと地面に近づいていく。


「レイちゃん! 自分の体が浮き上がるのをイメージしてください! そうすれば何とかなります!」


 そう言いながら女神は手を放した。


「いや、なんとかって!」

「問題ありません! 地面に落ちたところで尋常じゃないほど痛いだけで死にはしないはずなので!」

「いや! そういう問題じゃなくて!」


 本当に肝心な時に情報が足りない。これが平静でいられる状態だったらそんなことを考えいていたのだろうが、今はそんな余裕もない。

 迫りくる地面を前に空っぽになりそうな頭を必死に奮い立たせて空を飛ぶイメージをする。


「あっそう言えば、神力の使い方教えていないのに飛べるわけないか」


 事態の割に軽い口調の声が聞こえてくるころにはボクの体は地面にたたきつけられ、視界が真っ暗になった。




 *




「……知らない天井だ」


 目を覚ましたら知らないところにいた。まさに二回目である。今、目に映っているのは自宅の天井でも女神の家の天井でもなく病院なんかでよくあるような白い天井だ。

 どうせなら、これまでの出来事がすべて夢で家族が、やっと起きたと泣きついてくれた方がいい。しかし、現実はそうではない。手を自分の頭の上に持ってくると、子供サイズの小さな手が視線に入る。そこから得られるのは体は意識を失う前のモノ……つまり、これまでの出来事は夢ではなかったという結論だ。

 ボクは意識を失う直前に自分の耳に入ってきた女神の言葉を思い出して重くため息をつく。


 重要な情報が抜けているという次元ではない。もはや、わざとそう言った行動をとっているのではないかとすら思えてくる。


 体を起こそうと力を入れると全身に痛みが走った。


「痛っ」

「あっ目、覚めました?」


 ボクが声を上げるのとほぼ時を同じくして黒いロングヘアーで白い白衣を着た女性が部屋に入ってきた。

 少なくとも女神ではない。さらに言えば、高校生だった頃を含めてボクが知っている人物の中に彼女はいなかった。


「えっと……あなたは?」

「これは失礼。私は薬師をしております落葉(らくよう)(くぬぎ)と申します。転生庁の女神様よりあなたの治療を頼まれた次第です。全身を打撲しているのでしばらくは起き上がらないことをお勧めします」

「しばらくね……そんなにひどいの?」

「まぁ生身の人間だったら原型すらとどめていないかと。よかったですね。神様で」


 そんなことで神様であることを実感したくはなかった。

 せめて、不思議な力を使うとかそういうことでならまだしも、このような形では納得できない。


 そんなボクの心情など関係なく、彼女は手に持っていた大量の白い布の束をベッドの机に横に置く。


「……それで? 私は名乗ったのにあなたは名乗らないのですか?」

「女神から何も聞いていないの?」

「いえ、あなたの素性含めてすべて聞かされています。それでも、一度は自分の口で名乗るのが礼儀では?」

「……それもそうか……ボクは立山玲。最近、神様になったばかりだよ」

「そうですか。よろしくお願いします」


 彼女は表情を崩すことなく事務的な口調で話しながら、机の上に布を広げたり、ハサミでそれを切ったりと何かの準備している。

 首だけは動かしても痛みを感じなかったので彼女の手元に視線を送ると、椚は作業の手を止めて小さくため息をついた。


「見てても面白くありませんよ」

「気にしなくてもいいよ。ただたんに個人的興味があるだけ」


 ボクの返答に彼女は“そう”とだけ返答して作業を再開する。

 どうやら、椚は積まれた布を一枚一枚丁寧に畳んでいるようだ。ボクの横でやる意味は分からないが、彼女は淡々と布を畳んでいく。


 最初はたくさんあるように見えた布はあっという間に数を減らし、すべてきれいに畳まれた。


「そうだ。あなた、タイ焼きはどこから食べますか? 頭、それとも尻尾? 女神様に聞いてみたんですけれど、あなた自身の口から聞くべきだといわれたので」


 なぜ、タイ焼きの食べ方など聞かれるのだろうか? 女神にも聞かれたが、その意図がまったく理解できない。もしかしたら、女神が言う通りタイ焼きの食べ方をあいさつ代わりに聞くのだろうか?

 とりあえず、うそをつく理由もないのでボクは正直に答えることにした。


「……頭からかな」

「頭ですか。見た目の割に勇気ありますね。それで身を滅ぼさないように気を付けてください」

「へっ?」


 何の冗談かと思い椚の顔を見るが、彼女の表情は真剣そのものだ。

 ここにきて、彼女の言葉から神界におけるタイ焼きが自分が知っている魚型の焼き菓子であるタイ焼きとは違うのではないかと思い始めた。

 いや、この質問が持つ意味が違うだけでタイ焼きそのものはきっと一緒……


「食べようとして逆に食べられるなんてことだけはないように気を付けてくださいよ。たぶん、あなたぐらいの大きさだと丸呑みされるでしょうから……まぁ死ぬことはないと思いますけれど、排泄物と一緒に出されるのは一部の特殊な方をのぞけば嫌がって当然ですし」

「えっ? あれ? やっぱり、ボクが知っているタイ焼きとここのタイ焼きは別物?」

「何を言っているのですか? タイ焼きと言えば……」


 そこまで言って、椚は何かに気づいたように“あー”と声を上げながらあごに手を当てた。


「もしかしてあなた。日本の出身ですか?」

「えっ?」

「この世界……特にこの町は転生庁がある関係でありとあらゆる世界の文化が融合し、競合し、まじりあっています。なので複数の世界で別の意味でつかわれている言葉は最初にこの世界に入ってきたモノとするというルールがありまして。たとえば、“タイヤキ”はある世界においては魚の形をした食べ物を指しますが、この世界に最初に“タイヤキ”という言葉を伝えた世界では“タイ”と呼ばれる巨大魚を捕獲し、捕獲者がその場で食べるんです。そして、その余りを焼いて皆に振舞うという行事を指すんです。その魚の大きさは尋常ではなく、人間の子供ぐらいなら軽く丸呑みできます」

「えっそうなの?」


 自分でもわかるほど、サーと血が引いていく。

 説明を聞く限り、タイ焼きは恐ろしい魔物との戦いを強いられるようなそんな印象を受ける。


 しかし、それはそれで一つの疑問が思い浮かんでくる。


「でも、それじゃ何でタイ焼きを食べるときは頭か尻尾かなんて初対面の人に聞くの?」

「あーなんて言うかな……ある意味風習的なモノみたいですけれど、このタイ焼きの質問には自分がどういう人間かという自己紹介も兼ねているんです。頭から行くのは、敵に対して真正面に向かっていくタイプ。尻尾から行くのは相手の後ろにいかに気づかれずに近づくかと考えながら行動するタイプ。おなかから行くのは、おなかをなでるとタイが懐くことがあることから相手を懐柔して攻略するタイプ。最後に背びれから行くのは相手の移動手段を奪う卑怯者タイプといった四つが代表的ですね。ちなみに私は尻尾、女神は背びれです。まぁ頭と答えると考えなしに真正面から突っ込むバカとみられることもあるから」

「何その深い内容……」


 要約すると、初対面の人に対してあなたは敵に対してどう立ち向かいますか? と聞いているようなものだ。

 いったい、どんな場所からそんな風習が伝わってきたのかわからないが、これから同じ質問をされたときは、注意して答えないと大変なことになる。


 そこまで考えて、ボクはふと、あることを思い出した。


「あれ? そういえば女神は?」


 考えてみると、目を覚ました時に真っ先にそばにいそうな女神の姿がないのだ。

 椚もまた、女神の不在を忘れていたようで何かを思い出したように手をたたいた。


「そうそう。すっかりと忘れていましたが、女神様はいませんよ? 緊急で仕事が入ったとかなんとか言っていましたけれど……」

「仕事?」


 ボクの質問に椚は小さく首を縦に振る。


「えぇ。転生庁の方で問題が発生したそうで……」

「ふーん。なるほどね……」


 転生庁で発生した問題というのが何かわからないというよりも、転生庁でどんな仕事をしているかというところからわかっていないのでことの重大さを理解できない。

 まぁもっとも、仕事を覚えて行けば自分も女神ともども呼び出されるなんてことがあるのかもしれない。


「どちらにしても、ここにいることは変わらないかな?」

「そうですね……しばらくは安静ですから、ここか家で寝ているぐらいしかやることはありませんね」

「だよね……」


 ボクは力なく笑いながら首を戻して天井を見る。


 まぁなんにしてもしばらくベッドの上からは動けないようだ。


 その後は椚と雑談をしながら女神が帰ってくるまでの時間をつぶすことにした。


 それにより、帰ってきた女神が“私がいない間にほかの女と!”などと言い出したのはまた、別の話。

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