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額面通りの神様転生  作者: 白波
第六章 お花見
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桜が咲く世界の提案

 転生庁のロビー。

 椚と無事に合流したボクと女神は彼女を連れて、この場所を訪れていた。


 念のために彼女に急病人の対応は大丈夫なのかと聞いてみたが、どうやら女神が代わりの医者を手配してたらしく、一日ぐらい離れても問題ないそうだ。

 こうして、顔を合わせた三人は無機質なロビーを抜けて、これまた無機質な廊下に出る。


 白い廊下を白い照明が照らしているという風景はいつまでたってもなれそうにない。これにはほかの転生庁の人間に会うことがないということも影響しているのだろう。

 ひたすら、三人の足音がカツカツと響くこの廊下を椚は物珍しそうに見ている。


「ねぇここのは絵とか飾らないんですか? あまりにも無機質過ぎるというかなんというか……」


 それを見て、椚がそんな感想を述べる。

 これを聞く限り、彼女は初めて転生庁を訪れたようだ。もっとも、普通に過ごしていればここに来る機会などないのかもしれないが……

 ただ、椚の疑問はもっともでこの転生庁は全体的に無機質ぐらいに無機質だ。


 それに何か意味があるのかと女神に尋ねたことがあるが、返ってきた答えは上の意向だからの一言であり、女神自身もちゃんと把握できていないようだ。

 それはそれでどうなのだろうかと思ってしまうが、こればかりはそれなりの事情があるのだろうから、あまり強く言うことはできない。


「まぁでも、いいのではないですか? 無必要なモノはいらない。シンプルさを追求した非常に効率のいい建物だと思います」

「そういうものなんですかね……まぁそういうことにしておきましょうか」


 椚は納得いかないながらもある程度の理解は持てたようでそれ以上は何も言わない。


 女神はいつもとは違う廊下に入り、その突き当りにある部屋の扉の前に立つ。


 “特別観測室”という名のその部屋の入り口にはいつのも仕事をする部屋ほどではないにしろ厳重なセキュリティ対策がされているようで女神は一つ一つそれを解錠していく。


「思ったよりも厳重ですね」

「まぁそれはボクも思ってるよ」

「いやいや、もしものことがあっては困りますしね……みなさんがぽんぽんと異世界へ飛んでいくような事態になればさすがに責任を負いきれませんから」

「まぁ確かにそうかもしれないけれど……」


 ここに来てからかなり異世界にかかわることをしているせいか、あまりイメージできないが確かに好き勝手に移動できるようなことになれば、それはそれで大変なことになってしまうだろう。

 そういった意味で考えればこのレベルのセキュリティは納得のいくモノであり、当然といえば当然なのかもしれない。


 暗証番号に続いて声紋認証と網膜認証を行い、ようやく扉が開く。


 部屋の中には巨大なカプセル型の装置がおいてあり、そこにはすでに“準備完了”という文字が浮かび上がっていた。


「さて、あとはここに乗り込むだけで私が提案した世界へ行けます。どうですか? 行きますか?」

「提案って言われてもですね。どんな世界なのですか?」

「それは行ってからのお楽しみです」


 彼女はそういうと、そのまま装置に入っていく。

 別にそれは提案というよりも決定事項を伝えただけなのではないかと思ってしまうが、とりあえずそのあたりのことはいいだろう。

 装置を操作するのは女神なのでいずれにしても女神の意向に逆らえないし、そうしたとしても新しい候補地を提案できるような自信もない。そうなれば、あとはおとなしくついていくという選択肢しか残っていないし、そもそもそこまで抵抗するつもりもないのでボクはおとなしくそのあとに続く。


 椚は椚で何か言いたげだったが、どこかあきらめたような様子で装置に乗り込む。


「それでは早速出発しましょうか。出発!」


 女神の宣言とともに装置の周りは一気に光に包まれて、視界は真っ白な光で覆い尽くされる。


「うわっ」


 そんなボクの言葉を最後にボクたちの意識は闇の中へと沈んでいった。




 *




「……まったく、来て早々何をやっているのですか?」


 頭上から降ってくるそんな声でボクはゆっくりと目を覚ました。

 ぼんやりとした視界に写るのはこちらを見下ろす幼女……もとい、閻魔である。


「えっと……閻魔さん?」

「あっていますよ。まったく、到着早々いきなり倒れるものですから何事かと思いましたよ。とにかく、場所はとってあるので回復したら声をかけてください。案内します」


 ボクは閻魔にそう言われてゆっくりと体を起こす。

 周りを見てみると、すでに女神と椚の姿はなく、どうやら花見に行ってしまっているようだ。


 徐々に視界がはっきりしてきて、閻魔の顔をしっかりと確認できるぐらいになるとボクは閻魔に声をかけた。


「……あの……」

「どうやら戻ったようですね。わかりました。それでは行きましょうか」


 閻魔はすっと立ち上がり、歩き始める。

 ボクはそれに続いて立ち上がり、その後ろについて歩き始めた。


 改めて周りを見てみると、どうやらこの場所は川の土手とそこから城がある公園まで桜並木が続いているというような場所の様だ。

 河川敷にはたくさんの露店が並んでおり、そこで売っているのはたこ焼き、かき氷、焼きそばにお好み焼きとまさに日本の祭りそのものだ。というよりも、この風景を見る限りここは日本のどこかなのかもしれない。


 土手の上に立って呆然とその風景を眺めていると、桜並木の向こう。川を超える緑色の鉄橋の上を真っ赤な車両の電車が通過していく。


「ここって……」

「あなたの出身地からは少し離れていますが、国は同じです。時間がありませんのでついてきてください」


 閻魔の言葉でここが日本であることを肯定され、ボクはもう少し周りを見てみたいと思ったが、閻魔が河川敷へと向かう階段を降り始めてしまったのでボクは焦ってその背中を追いかけ始めた。


「それで? 女神たちはこの辺りにいるんですか?」

「えぇ。この土手でちゃんと場所取りをしていますよ。まぁどうせ移動して露店でも見て回っているのでしょうけれど……」


 それはちゃんと場所取りをしているとは言わないのだろうか? というのは愚もんだろう。

 おそらく、ちゃんと目印なんかを置いて他の人に取られないようにはしているはずだ。


 露店がたくさん並んでいる場所を抜けて、河川敷をさらに歩いていくと、たくさんの人が土手に座っていて、それをさらに抜ければ、控えめにブルーシートが敷いてある場所につく。


 閻魔が真っすぐとそこに向かうあたり、どうやらそこが自分たちの場所らしい。


 ブルーシートの上では女神がカップの中にこれでもかと盛られた唐揚げを懸命に頬張っていた。


「あなたは何をやっているですか……」

「はひってめふらふぃたへものがあっふぁもへたべへみふぇいるんふぇす(何って珍しい食べ物があったので食べているんです)」

「食べるために来たわけではないでしょう」


 その様子を見た閻魔がため息を漏らす。

 口に入っていた唐揚げを飲み込んだ女神は手に持っていた竹串の先を閻魔に向けた。


「食べにってこっちもメインでしょう! 花を見ながらおいしいものを食べて、おいしいお酒を飲む! これこそが花見の醍醐味です!」

「いいえ、花見は咲き誇る花をめでるための行事です。優雅に花を見て、時を過ごす。これが正しい花見です。まぁ私はその実を知らないので間違っているかもしれませんが……」


 知らないのかよ! と心の中で声をあげる。とてもじゃないが、閻魔相手に口に出せないからだ。

 どちらの主張も間違ってはいないので一方を否定しようとするのも難しい。


 ボクが二人に挟まれて悩んでいる中、それに割り込むようにして、別の声が聞こえてきた。


「おや、二人ともどうされたのですか? お花見団子買ってきたのですけれど」


 手に三色団子が入ったパックを持った椚の声だ。

 彼女はそのままブルーシートの上に座ると、輪ゴムをとって三色団子をそれぞれ一本ずつ渡す。


「ここは花見の席ですよ。喧嘩はしないでください。ほら、おいしい団子を食べながら桜を見て、落ち着いてください」

「だって、ほらみんなで食べよう」


 それに便乗するような形でボクも女神と閻魔に団子を食べるように促して、自身も三食団子を口に含む。

 一番上の桜色の団子を食べると、ふんわりとした甘みに包まれた皮とそれに包まれたこしあんが絶妙なバランスで口の中にとろけていく。

 女神も閻魔もしばらくの間、三食団子を眺めていたが、それを口に含むとボクと似たような反応を見せた。


「まぁ椚の言う通りですね。せっかく桜の下にいるんですから、たまにはのんびりと花をめでるのもいいかもしれません」

「確かに。露店のあるようですから、食を楽しむというのもありとしましょうか」


 どうやら閻魔も女神とそれで落ち着いたらしく。

 お互いに団子を食べながら上にある桜の木の枝へと視線を移す。


「きれいですね」

「そうですね。まぁこれでないと一人だけ前日の深夜にきて場所取りをしていた意味がありませんので。本当に寒かったです」

「うん。そうだろうね」


 そんな時間から待っていたのかと心の底からねぎらいながら改めて頭上の桜を見る。


「やっぱりきれいだな……」


 桜の花もそうだが、その桜の木々の間から見える青空はとてもきれいに澄んでいて、一本の飛行機雲が青い空に白い線を引いている。


 ボクはしばらくの間、時間が経つのも忘れて桜とその向こうに見える青空を眺めていた。

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