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額面通りの神様転生  作者: 白波
第五章 立山玲
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立山玲という人物はどんな人なのでしょうか

 転生庁の中にある休憩室。

 仕事の合間の休憩時間にボクはそこを訪れていた。


 一応、自分の後ろには女神も同行している。

 一応というのは、現在の彼女が実体を持っていないからである。


 これは別段彼女が死んだとかそういうわけではなく、今日は月に一度ある情報を整理する日だとかで彼女がたいへん多忙なのでボクのそばに彼女の意思をもって動くホログラムをボクのそばに着けたのだ。

 かつてはこの日になると、情報整理の仕事が多忙すぎて本人が直接ボクの面倒を見ることができないのだという。


 そういうわけで今日は一日、本人は情報室なる部屋にこもりっきりでその代わりにいつの間にか作られていたホログラムがボクのそばにいるわけだ。


 そのホログラムは女神の姿をほぼそのまま再現したものなのだが、ホログラムである以上、彼女の姿は半透明であり、時々映像が乱れたりする。

 それにしても、この転生庁の建物に使われているシステムはいろいろとボクの理解の範疇を越えるようなモノが多数ある。


 例えば、転生の手続きで使われるあのドーム。


 あの仕組みは複雑すぎていつになっても理解できない気がする。

 透明な壁はガラスだとしても、人の思考を写し出す仕組みやら、あの空中に浮かんで大量に情報を浮かべていたあのモニターに至ってはもはやSFの世界だ。


 神界には様々な世界の技術が流れ込んでくるといっていたから、当然ながらボクの理解の範疇を超えるものがあるのだろうが、それでもこの場所だけいろいろとハイテクすぎる気もする。

 そんなことを考えているうちにボクは休憩室に到着して、いすに腰掛けた。


 今日は業務に余裕があるそうでいつもより早く仕事が終わりそうだ。


『せっかくの休憩時間ですし、何か話しませんか?』


 そんなボクにホログラムの女神が声をかけてくる。


「話ね……まぁ悪くないかもしれないね」


 ちょうど、ボクとしても暇をしていたのでその申し出はうれしかった。


『えぇ。悪くないと思いますよ。私はあの方の意思を有しているとはいえ、別個体と考えていただいてもよろしいわけですし。なんだったら、普段は聞けないこととか聞いてみてはいかがですか?』

「普段聞けないことね……」

『半ば忘れていると思いますが、あなたの死因に関する質問にはロックがかかっています。予めご了承ください』


 別に忘れていたわけではないが、ある意味当然の処置だろう。

 女神としてはどうしてもそこは知られたくなかったようだし、ここであっさりと答えがわかってもちょっと困る。

 だから、ボクは少し遠回りに彼女に聞いてみた。


「それじゃあさ……ボクを助手に選んだ理由とかって聞ける? ほら、いきなりだったからよくわからなくて」

『あぁそういうことですか。かまいませんよ。それでは、少し前の話をしましょうか』


 彼女はゆっくりと自分の過去について話し始めた。




 *




 神界にある転生庁の庁舎の最上階にある情報室。

 そこには各世界で今現在生きている人のありとあらゆる情報が集められ、将来の転生者候補選定のための資料作りを担っている部署である。とはいっても、転生庁の職員は数が少ないため、ここの仕事も女神がたった一人で請け負っているのだが……

 女神は部下が運んできた大量の資料を一枚一枚めくり情報をデータベースへと記録していく。

 そして、その情報を基に誰を転生者候補とするのか、そして誰をどの世界へ送るのかという判断をするための資料にしているのだ。


 この情報入力は月に一回のペースで行われ、次に情報を入力するまでに死亡する可能性が高い人を優先に情報を入力していく。


 女神は膨大な資料の中でまずはその人物について簡単にまとめられているページを流し読みしていく。


 あっという間に一冊目を読み終えた女神は二冊目に手をかける。

 そして、ここにも大した人物はいない。そう結論付けたとき、女神の手が止まった。


 立山玲。都立高校に通うごく普通の高校生であり、別段特記すべき事項なし。


 今自分の目の前にある彼に関する資料の最初のページにはそのようなことが書かれていた。

 膨大な資料の中の一ページ。なぜ、彼の資料が目に留まったのかはわからない。今、考えてみると何かの直感的なものだったのかもしれない。

 その資料を手に取った私は資料に張られた写真を見て、なぜだかその子を自らのそばに置いてみたくなった。


 しかし、女神がいるのは神界。そして、その子が住んでいるのは地上界。


 通常であれば、接触すらできないような状況である。

 仮に彼が死んで転生者候補となっても会えるのは転生させるために必要な手続きをする間のみ、転生した彼は自分のことなど覚えていられるはずもないので懸命に会話して仲良くなったところで転生させてしまえばそれまでの関係だ。


 それでも、女神はなぜかその青年に興味を持ってしまったのだ。

 しばらくの間、その資料を眺めていた女神はその資料を机の上において小さく息を吐く。


「まったく、何をしているんだか……」


 そうつぶやきながら、女神はページをめくり次の資料に目を通す。

 すでに半ば機械的となってしまった作業を女神はその後も長い時間をかけて永遠と繰り返す。


 そのあとも時々部屋に出入りする部下との会話だけで基本的には一人で机の向かい続ける。


 その日、転生庁の情報室には夜遅くまで灯りがともっていた。




 *




 転生者候補に関する資料作成をした次の日。

 女神はいつもより早く目が覚めた。


 彼女はゆっくりと体を起こすと、障子と雨戸をあけて外の光をゆっくりと浴びる。


「はぁ昨日は結構雨がひどかったけれど、今朝はきれいに晴れたみたいですね」


 彼女は一人そうつぶやくと、そのまま台所へと向かう。


 台所に到着した彼女は食糧庫から魚を出してそれを網の上に乗せて火にかけ、米がたけていることを確認する。

 続いて、昨日の夜に作っておいた味噌汁を温め始めてから、どうせすぐに朝食ができるだろうと白米を茶碗に盛り、それを机の上に置いてから椅子に座った。


 昨日は夜遅くまで仕事をしていたので今日は一日休み、明日から通常の業務……つまり、転生者候補の振り分けと転生の手続きを行う。

 昨日提出した資料を基に上層部が転生者として適合しているかどうかという判断を今日あたりしているであろうから、いずれにしても明日にならないと仕事はできないので今日はゆっくりと休ませてもらうことにしていうのだ。


 そもそも、現在の転生システムは少々煩雑でその運用もかなり慎重に行われている。

 これには転生システムテスト時に起きた事故が大きく関係しているのだが、近頃は技術も進歩して安全性も増しているのだから、少しばかり作業を簡略化してもよいのではないかと思えてくる。


 しかし、だれもそれは許さないだろう。


 また、事故が起こったらどうするのか? 転生システムに問題があったときに対処できない。

 女神としては現状の複雑なシステムの方が誤操作によるミスで何か大きな問題が起きかねない気がするのだが、そこのあたりはどうなっているのだろうか?

 そもそも、本来なら必要ないもしくは全く使っていない機能が多すぎるのも問題だ。


 例えば、緊急転生システム。どこかの世界で転生者が今すぐ必要になるようなひっ迫した事態が発生した際に転生前の人生を強制的に終了させて次の世界へ本人の意識、記憶を保ったまま新たな人間として生まれさせるというもの。これに関しては転生者候補が常にあふれるほど存在しているため一回も使ったことがない。

 続いて転生者を人間以外に転生させる装置。これに関しては訳が分からない。


 人間以外というのは定義が非常に幅広く、犬や猫といった動物から野菜や樹木といった植物、家や家具、はては消耗品まで道具やなんかにすることもできる。

 これはある意味おまけ程度のモノなのかもしれないが、これに関しても使う理由がないし、仮に間違って使ってしまった場合、取り返しのつかないことになる。


 だからこそ、女神はこの二つの装置のボタンにはカバーを付けて間違って押したりしないように気を付けているのだが、その一方でそのボタンを押した結果に少なからず興味を持っていた。

 そこまで考えて女神は首を横に振る。


 まったく、何を休日になってまで仕事のことを考えているのだ……という具合にだ。


 女神は小さくため息をつきながらふと視線を魚に戻した。


「あっ! しまった!」


 そこに来てようやく女神は朝食(さかな)を火にかけたままであることを思い出した。

 女神は急いで火を止めて魚を見るが、すでに魚は真っ黒に焦げている。


 その横では昨晩の残りの味噌汁が沸騰していて、先に茶碗に持っていた白米は少し冷えていた。


「はぁ……やってしましましたね……」


 せっかく目覚めがよかったのに最悪の朝だ。


 女神は心のそこからそう思っていた。

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