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額面通りの神様転生  作者: 白波
第四章 閻魔と女神
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日計六花という人物について知るために(後編)

 町から外に出る箇所にある長い長いトンネルに入ってからしばらく、バスの車内は相変わらず薄暗い。

 六花の横に座った女神は手元の紙に何やらメモをしている。


「それで? 質問とやらはいつから始まるのですか?」

「まぁまぁ六花ちゃん。私も今突然始めたので準備というのがいるのですよ。待っていてください」

「はぁわかりましたよ」


 いつもはボクに適当にやらせている割には女神はマメに用意しているように見えた。


「それで? どうして急にこんなことを? こんなタイミングで始めたのなら、どうせ、単なる暇つぶしなんかではないんでしょう?」

「おやおや、暇つぶしとは失礼ですね。さっきも言ったはずですよ? あくまでレイちゃんに手本を見せるだけだと」

「……手本も何もないでしょうに……まぁいいです。最後まで付き合いますよ」


 六花は半ばあきらめたような口調で女神に応対する。

 もっとも、女神と六花の関係は話を聞く限り、かなり昔からあるようなのでこれ以上追及しても無駄だなどと考えているのかもしれない。

 実際にボクも女神の行動に関しては抗議したところで無駄だと思っている。


 そんなことをしている間にバスは長いトンネルを抜けて町の外に出る。


「さてと、それでは始めましょうか。日計六花さん?」


 そういって、女神は不敵な笑みを浮かべる。


 それに対して、六花もまた不敵な笑みを浮かべて答えた。


「えぇ。どこからでもどうぞ? まぁあなたが何を聞きたいかぐらいなんとなくわかりますから」

「まぁそうですね。転生庁のシステムはこの場にはありませんので、そういった事態を想定した訓練的な感じで行かせてもらいますね」


 彼女がそういってメモ用紙を掲げると、それが淡い光に包まれ、ボクたち四人を包み込んだ。


「えっなにこれ!」

「防音結界。まぁ当然の処置ですね」


 ボクが驚愕の声をあげると、すかさず蛙葉が口を開いた。

 彼の言うことが文字通りの意味ならば、この中で話していることが漏れないということなのだろう。


 六花は周りをくるりと見回した後に小さくうなづいた。


「さすがというべきですね。周りに全く気付かれている気配はありません」

「まぁこちらもまた、私の専門分野の一つですから。さて、準備も整ったところで始めましょうか」


 女神はそういうと、別のメモ帳を広げ始めた。


「さて、まず私が聞きたい事は三つあります。まぁあなたの名前、職業はわかっているので今回は割愛しますのでそれは一つには含まれません」

「三つですか。わかりました」

「ご協力ありがとうございます。それでは早速一つ目。あなたの閻魔としての信条を教えてください」

「……わかりました」


 閻魔は小さくな声で返事をしてから、間をおいて話し始めた。


「私は閻魔として多くの人を裁いてきました。生きている人間同士ではさばけない罪。それを正当な手段で的確にさばき、冤罪を出さない。そして、悪人を許さない。それが私の信条であり、哲学でもあります。私にとって、いえ、この閻魔という仕事にとってこれ以上に大切なことはありません」

「そうですか。確かに閻魔という職業には間違いはあってはなりませんからね。しかし、そうなるときになるのがあなたが冤罪を生み出してしまった過去があったりはするのかということが気になってきますね」

「……過去に冤罪があったかどうかについて聞かれれば、ないと思っています」


 怒るわけでもなく、自慢するわけでもなく、ただ平然と事務的な口調で六花は冤罪を生み出したことはないと言い切った。

 それもあって、その言葉は確かに強い信憑性をもってボクたちの耳に届く。


「冤罪なしですか。まぁあなたがそういうのなら真実なのでしょう。間違って地獄に送られたらたまりませんしね。さて、それでは二つ目の質問に入りましょうか。日計六花。あなたは自身の得意技能は何だと思いますか?」

「また、唐突な質問ですね。私の得意技能ですか……まぁそうですね。強いて言うならば、人のウソを見抜けるとかそのあたりですね。まぁこんな職業なんでどうしても身についてしまうんですよ」


 六花の言葉に彼女本人を除く三人がうなづいた。

 確かに納得できる話だ。閻魔様の前でうそをついても無駄だとわかっていても、人間の心理としてはついついいい方向にごまかすように話したり、うそをついてしまうことがある。

 それを見抜いて適正に裁くのが閻魔であるから、あの手鏡のようなうそ発見器に全面的に頼らずとも、うそをちゃんと見抜ける力というのは必要だ。


 だからこそ、彼女は必然的にそういった力を身に着けていったのだろう。


「そうですか。まぁそうでしょうね。閻魔にウソを見抜く力は必須ですから。でも、あなたにも見抜けないウソの一つや二つはあるんでしょう?」

「えぇ。それはもちろんありますよ。私だって万能ではないのです。時に間違いを犯しますし、気付かないうちに感情に流されることもあるという点については認めざるを得ません。いずれにしても影響は最小限に抑えますが……」


 彼女はどこまでも職業に忠実な人間なのかもしれない。

 いつも出会う場所が銭湯で女神の悪ふざけのせいで説教ばかりされているし、女神からは行動がハチャメチャだということしか聞いていないが、それは彼女の一面であり、実際は仕事を大切にしているそんな人なのかもしれない。


「まぁあと一つはいかに拷問っぽいことも拷問に見せないかとかも得意ですね。血の池地獄水泳大会や極寒地獄我慢大会等々何ですけれども、あれはなかなか楽しかったです。別に何かを吐かせる目的ではなかったですし、拷問してはかせたなんて言ったらまずいですからね。まぁ派手にやれない分、拷問と呼べないレベルと言われればそれまでかもしれませんが……あくまで私的拷問であり、私的地獄の施設有用活用です」


 先ほどのボクの思考を吹き飛ばすような勢いでとんでもないことを言い放った。

 こっそりと前の座席をうかがってみれば、楽しそうに体を揺らす六花とあきれたようにため息をつく女神の姿が確認できた。

 おそらく、六花は満面の笑みを浮かべていることだろう。


 そして、ボクは今一度確信する。彼女はドがつくほどのSであると……


 横に座る蛙葉に視線を合わせてみれば、額に手を当てて首を振っており、彼もまた閻魔の言動にあきれているという様子が見て取れる。

 驚愕の表情を浮かべていたりするわけではないあたり、彼からすれば日常茶飯事ということなのだろう。


 まったく、この閻魔は普段からこんな言動をしているのだろうか?


「そうだ。レイちゃん。ちょっといいかしら?」


 そんなことを考えている中、突然女神から声がかけられる。


「えっ? はい。どうかしましたか?」


 あまりに唐突だったので反応が遅れたが、女神はそれを気にする様子は見せない。


「ちょっと、やってもらいたいことがあって……最後の質問の前にちゃんと記録が取れるように準備しておいてほしいの」


 あからさまにこれから何かをするという宣言に近いようなお願いは六花や蛙葉の耳にも間違いなく入っている。

 しかし、二人は全く気にかける様子もなく、互いにおとなしく車窓を眺めていた。


 おそらく、そういったところまで踏まえたうえで六花は女神の誘いに乗っているのだろう。


 だからこそ彼女は文句を言わないし、こんなことに付き合っているのだろう。


 ボクは迅速にことを済ませるために急いで紙とペンを取り出して、すぐにメモをとれる体勢に入る。

 そして、女神の目を見ながら小さくうなづいてみせると、彼女もまた小さくうなづいて元の体勢に戻った。


「さて、あなたに最後の質問です。これまでの人生の中であなたが一番後悔していることとは何ですか?」


 ある意味来るべくしてきた質問。

 おそらく、“あの子”についての真意を聞くために女神が仕組んでいた質問だ。それ以前までの前置きの意味というか必要性はいまいち読めないが、それでも女神が一番聞きたかった事はここだったはずだ。


 六花はしばらく黙りこくった後、小さく息を吐く。


「まったく、あなたは相変わらずずるいですね。そんな見え透いたやり方でなくてもいいのに」

「不快に思ったのなら謝っておきます。でも、これが私のやり方なので」

「……本当にあなたらしいかもしれないですね。転生庁の人間らしいやり方です。本当に」


 六花はまんざらでもない様子でくすくすと笑っているようだ。

 ボクはそれを見て、笑みを浮かべた。


「まったく、なんでこんな話をする前に笑っているのだか……まぁいいでしょう。それで? あなたが一番後悔していることはなんですか?」


 改めてそう問う女神に対して、六花は小さくため息をついてから答えた。


「……あの子のことに決まっているではないですか。私があの時、ちゃんとあなたを制止できていればと今でも思います。それだけじゃない。むしろ、無理やりでもあの子を連れだせばよかった。そうすれば、あの子は被害者にならなくて済んだのに」

「……たとえ、その行為のせいでまた別のだれかが悲しむような結果になったとしてもですか?」


 防音結界の中に静寂が訪れる。

 非常に答えにくい質問だ。自分のためならば、他人を犠牲にしてもいいのか? 日計六花という人物が閻魔という絶対に中立でなければならない以上、この質問の答えを探すのは容易ではない。


「私は、閻魔としてではなく、日計六花一個人としての考えを述べるのならば、私はあの子のためなら他の犠牲など気にしません。閻魔としては不適切な回答ですが、日計六花というただ一個人の観点に置いた場合、この考え方は間違っているのでしょうか?」

「……さぁ? そこに答えなどないんでしょうか。確かに閻魔としては間違っているのかもしれませんが、一個人としてそれが間違っているかは私が決めるものではありません。自分が信じるように進んでみてください。これから、あの子のところに行くうえでそれだけはちゃんと考えておいてほしかったというだけですから」


 女神はそういうと、席を立った。

 そして、こちらを見るとボクの手元にあるメモを一瞬、確認してから笑顔を浮かべる。


「さぁ席を元に戻しましょうか!」

「女神様! 走行中に席を立たないでください!」


 気が付けば、防音結界も解除されて周りの席からクスクスと笑い声すら聞こえてくる。

 そのあとは女神が六花に説教されているのを聞き流しながらボクは蛙葉と言葉を交わす。


 そうしているうちにバスは終点であるバスターミナルへと滑り込んでいった。

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