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額面通りの神様転生  作者: 白波
第四章 閻魔と女神
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日計六花という人物について知るために(前編)

 閻魔庁の一階ホール。

 閻魔の肖像画を背景に閻魔こと日計六花は立っていた。


 本人曰く、今日は閻魔の仕事をほかの閻魔に変わってもらい、今日はただの日計六花という一個人としてボクたちについてくるつもりのようだ。

 さらには蛙葉も同行するようで行きに比べて倍の人数での移動になる。


 転生庁がある町へ向かうバスは三十分ほど後に出るということで時間近くになるまでボクたちは閻魔庁のホールで待つことにした。

 バス停自体は閻魔庁を出てすぐの場所なので大体、五分ぐらい前に出れば余裕だろう。


 閻魔庁は今、昼休憩ということもありロビーは職員たちであふれているのだが、ほぼ中央に六花が立っているせいなのか、いまいち活気が足りない。どちらかと言えば、困惑の色が強くうかがえる。

 要はなんでこんなところに閻魔が居座っているのだという疑問だ。しかも、傍らにはそれなりの役職についている蛙葉に明らかにに外部の人間(というか神様)だとわかる二人がいるのだから、その異様さは計り知れない。


「もう六花ちゃんが渋い顔しているからみんな困ってますよ」

「……うるさいです。私は普通の顔をしているつもりですが?」

「いえ、日計様。今はかなり渋い顔をなさっています」

「蛙葉! 余計なことは言わなくてもいいです!」


 まぁこんな調子のやり取りがされているなどという事実は遠目に見ている人たちにはわからないだろうから、はた目には閻魔庁の人間と転生庁の人間がもめているようにしか見えないかもしれない。

 そして、さらに付け加えればこんなところでやるなよ。なんて言う心情でこちらを見守っているような気すらする。


 ボクは肩身が狭いですとアピールをするように肩をすぼめて雑談を交わす三人のすぐそばに座る。


「レイちゃん! レイちゃんはどう思いますか? 六花ちゃんの顔どう見ても渋い表情ですよね?」


 しかし、それも無駄な徒労であり、女神がボクに話しかけることですぐにその雑談に引き込まれる。


「さぁどうだろう? 見方によってはそうかもしれないね」


 下手な答えを出して、心証を悪くしたくないので当たり障りのない答えを返す。

 それに対して、女神はつまらなそうな表情を浮かべるが、まぁそれも致し方ないだろう。


 六花の方に目を向けてみると、彼女は相変わらず渋い顔を浮かべたままこちらを見ていた。

 幼い見た目の彼女が笑顔を見せれば、きっと……いや、間違いなくかわいいだろうが、閻魔という立場が彼女からそれを奪っているのだろう。だとすれば、それはかなり惜しいことだ。

 事前に聞いた情報だけを整理すれば、説教くさくて、行動な極端。具体的には血の池地獄での水泳大会、針山地獄でのピクニック、灼熱地獄で熱々の緑茶を飲みながらのお茶会など、地獄を使ったものが多い。


 そんな彼女は女神との間に“あの子”こと向日葵のことでいさかいがあり、それが多少なりとも転生庁の業務にも影響してきている……と大体そんなところだろうか?


 この経歴だけ見れば、どう考えてもこんな幼い少女の姿など思い浮かばないだろう。むしろ、非常に怖い魔王のような存在を思い浮かべるかもしれない。

 だからこそ、彼女はそんなイメージを守るために笑顔を見せない。なんとなく、そんな気がするのだ。


「立山さん」


 そんなことを思案しているボクに六花が声をかける。


「なんでしょうか?」

「私はあなたに関する転生法違反の件について放棄するつもりはありません。それだけは理解してください。要するに馴れ合うつもりはありません」


 どううて、このタイミングなのかということはさておいて、この時の彼女は非常にいい笑顔を浮かべていた。

 それこそ、見た目相応の無邪気な笑みだ。


 しかし、なぜであろうか? その笑顔を見れば見るほど背筋が凍りつくような気がするのは……

 この瞬間、ボクは悟った。ここ笑顔こそ彼女の最大の武器なのだろうと……


 いや、そうでもない気がする……この寒気の正体は……


「はぁどうやって拷問したら吐いてくれるのでしょうか?」

「日計様。そちら方面はほどほどにしておいてください」


 そうだ。寒気の正体はもっと前に会ったのだ。

 血の池地獄での水泳大会に針山地獄でのピクニック、灼熱地獄で熱々の緑茶を飲みながらのお茶会……仮にお茶会の時に閻魔が涼しい部屋にいるのだとすれば、閻魔はそれぞれの大会で人々が阿鼻叫喚をするさまを楽しんでいるのではないだろうか?


 要は何が言いたいかと言えば、日計六花はサディスト……つまり、ドSなのではないかということだ。


 仮に前者二つにおいて、彼女が高い身の見物というか、安全圏でことを見守って楽しんでいるのなら、まさにそれに当てはまるのではないかという疑惑である。

 もちろん、それを立証するほどの証拠など存在しないし、実際にそんな行動を目撃したわけではない。だが、なんとなくそんな風に思えてきたのだ。


「レイちゃん。そろそろバス停へ移動しますよ」

「えっ? もうそんな時間?」


 どうやら、いろいろと考えている間に時間はそれなりに経っていたらしく、すでにホールからは六花と蛙葉の姿が消えていた。

 ボクは急いで立ち上がり、女神とともにバス停へ向かう。


「まったく、なにをぼさっとしていたんですか?」

「えっと……日計さん……あの人って実際、どんな人なのかなって……」


 ボクがそういうと、女神は納得したような表情を浮かべた。


「なるほど。そういうことですか……それはとてもいい癖です。大切にした方がいいですよ。せっかくですから、練習がてら日計六花という人物について知ってみるというのもいいかもしれないですね」

「練習がてらって、転生庁での仕事の練習ってこと?」


 ボクが聞くと、女神はにっこりと笑みを浮かべて答えた。


「そうです。もちろん、六花ちゃんには説明した上でです。バスでの移動時間の暇つぶし程度で構わないので」

「うん。そうだね……そうしてみようか」


 ボクとしても日計六花について知りたいという感情はあったのでちょうどいいかもしれない。

 そんな会話を終えるころには閻魔庁のホールを出て、バス停に到着した。


 バス停ではすでに六花と蛙葉が待っていて、バスがちょうどバス停へと滑り込んでくるところだった。


「ギリギリですね。もし、遅れていたら説経モノでしたよ?」

「ごめんなさい。ちょっと、レイちゃんが考え込んでいたみたいで……そのこと含めてバスの中で話してもいいかしら?」

「別にかまいませんよ。さぁ早くバスに乗りましょうか。今はほんのわずかな時間でも惜しいぐらいの気分なので」


 彼女はそういうと、早々にバスに乗り込んでしまう。

 その後に蛙葉、女神、ボクの順にバスに乗り込むと、転生庁の近くの街を目指していると思われる人たちがバスに乗り込んでくる。


『長らくお待たせいたしました。発車いたします』


 行きとは違い、そんなアナウンスが入った後にバスはゆっくりと走り始める。


「それで? 話というのはなんでしょうか?」


 窓際に座った六花が後ろの座席に座る女神に話しかける。


「まぁ簡単なことですよ。転生庁においてその人物の人となりについて調査をしたりするのですけれど、その練習台になってもらいたいなと……もちろん、不都合なことは話さなくて結構ですし、共生するつもりはありません。当然ながら、虚偽を語られては困りますが……どうでしょうか?」

「問題ありません。私は虚偽ののこと話すつもりなど毛頭ありません。それがたとえ練習だとしてもです」

「……その返事は肯定と取っていいでしょうか?」

「お好きにどうぞ」


 六花の返事を聞いた女神はボクの方を向いてグッと親指を立てる。


「それではさっそく行きましょうか。どうしましょうか……レイちゃんの練習にと思いましたが、私が手本を見せるというのもよさげですね。せっかくですからそうしましょうか」


 女神は非常に楽しげにそう言った。

 もしかしたら、想定していた以上にあっさりと交渉が済んだのでいろいろとついでに聞きたいのかもしれない。

 ボクはそんなことを考えながらうなづいた。


「そうですか。あなたが自ら質問と……その言い草だと何の説明もせずにいきなり仕事をさせたのですか?」

「……その辺の解釈はご自由にどうぞ」


 女神はあまり明確な答えを示さずに立ち上がる。


「蛙葉さん。場所を変わってもらってもいいですか?」

「構いませんよ。今はちょうどバスも止まってますし」


 この町は入る時とは別で出るときには検問があるらしく、今はその列に並んでバスが止まっているのだ。

 その事実を確認した蛙葉はスッと立ち上がり、女神と場所を交代する。


「さてと……それじゃさっそく始めましょうか。あなた……つまり、日計六花という人物について知るために」


 ボクと蛙葉は彼女たちのすぐ後ろの座席に座っているために女神や閻魔の表情をうかがい知ることはできないが、なんとなく女神が満面の笑みを浮かべているような気がした。

 検問を終えたバスは再び走りはじめ、長い長いトンネルへと入って行った。

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