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額面通りの神様転生  作者: 白波
第四章 閻魔と女神
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閻魔に説明するために

「さて、そういうわけでいろいろと事情を聴かせてもらいましょうか? 女神様。そして、立山玲さん」


 閻魔は何かを探るような目でボクを見る。

 当然だろう。閻魔曰く、女神が訪れたついでに転生法違反とやらの調査をしようと言い出したのだ。探るようなつもりで来ているのなら、そういう目つきになるのは当然である。

 一瞬、動揺するボクに対して女神はいたって落ち着いたような様子で閻魔を見据える。


「転生法違反ですか……根拠はなんでしょう?」

「まず、あなたの管轄である転生庁の転生者記録と私の管轄である閻魔庁にある死亡者リストの比較をさせていただきましたが、転生者記録にある立山玲という人物は死亡者リストには載っていません。これに関して説明をいただきたい。あぁそうそう。立山玲。あなたに一応忠告しておきますが、あなたにもいくつか質問をさせていただきます。私の質問に対してのウソは許されません。それについたところで私はそれを見抜けるので意味はありませんが……」


 彼女はそう言いながら小さな手鏡のようなモノを取り出した。

 おそらく、彼女の言動からしてその鏡に話した内容が真実であるかどうか映るということなのだろう。


 まぁ目の前にいるのは天下の閻魔様だ。それぐらい持っていてもおかしくはない。


「なるほど、尋問する気は満々だということですね」

「えぇ。こちらとしても厳正な調査を求められておりますので」


 彼女はそばに控えていた蛙葉に鏡を私、自身と女神が座り間にそれを置かせる。

 閻魔はそれを確認すると、懐から一枚の羊皮紙を取り出してそれを机の上に広げた。


「改めて問いましょう。転生庁の転生者リストと閻魔庁の死亡者リストに差異があるのはなぜでしょうか?」

「“単なる記入漏れ。単純ミス。もしくは誤記”と思われます。こちらだけに責任を追及されても困ります。あなた方お内部調査も行ってみたらどうでしょうか?」


 女神が質問に答えると、手鏡は青色の光を灯し始めた。


「……なるほど、真実ですか」


 どうやら、鏡が青色に光ると嘘をついていないということになるようだ。なんだか、思っていたのと違う。

 こう。なんというか、あの鏡に真実の風景が映るとかそういう仕組みではないらしい。


 そんな風なことを考えているボクの横で閻魔からの尋問は続く。


「さて、次に立山玲。あなたに質問します。あなたは自らの死因を覚えていますか?」

「えっと、“覚えてないよ”」

「そうですか。それを誰かに告げられたことは?」

「“それもないかな”」


 閻魔は二つの質問を終えた後に鏡へと視線を戻す。


「……どうやら、真実のようですね」


 ちゃんと素直に答えたので鏡の色は青色だ。


「素直なのはよいことです。よりおいしくて熱い緑茶を用意してあげましょう」


 灼熱地獄で飲むのならもっと冷たい方がいい。

 そうは思ったが、口には出さないでおく。理由はいたって単純でこれ以上の面倒事を避けたいからである。

 今、この状況で閻魔に対する文句の一つでも言ってみれば、代償は高くつくだろう。まったくもって困ったものだ。


 この閻魔の性格についてはあまり詳しくないが、それでも目の前の彼女が面倒くさいということだけは確かな事実としてこの場に存在している。

 おそらく、どうあがいたところでこの会談が終わった後は灼熱地獄で熱々の緑茶を飲みながらモニター越しに閻魔様の説教を聞くわけだ。(なお、閻魔様は涼しい部屋で熱弁をふるうらしい)

 そんな状況を想像して、ボクは心の根底で大きく息を吐く。


 当然ながら、ボクの心情など関係なく閻魔と女神の対談は続いているのだが……


「さて、女神様。次の質問をさせていただきます。立山玲は本来ならまだ死すべきではなかった。付け加えれば、わざわざ新しい神としてあなたのそばに置く必要性などない。このあたりはどうでしょうか?」

「……人の生死というのは不確定なものです。なので“意図的に介入することは不可能です”。また、立山玲を転生させるわけでもなく、私のすぐそばに置いたのは“私個人が彼女は私の助手にふさわしい”と判断したための措置です。回答は以上です」


 女神の返答を蛙葉がメモにしたため、閻魔は手鏡を確認する。

 今回の質問の答えもまた、鏡は青く光り真実であると示させる。


 それにしても、女神の受け答えはまるで薄氷を踏みながら歩いているようなものだ。

 本当に都合の悪い真実を隠しつつもウソとはならない微妙なラインをつきながら話している。


 しかし、女神はそのようなことをしているのを表には全く出さず、いたって涼しい表情で淡々と語る。


「……さすが女神様。なかなか尻尾を出してくれませんね」

「尻尾? はてさて、何のことでしょうかね? 私はやましいことなどなに一つもないのですが……それに女神様なんて言う堅苦しい呼び方はやめません? 昔の通り二人で名前呼びというのはいかがでしょうか? あぁでも、いきなり名前というのは久しぶりすぎてあれですので……苗字で行きましょうか。日計(ひばかり)さん」


 苦虫をかみつぶしているような顔を浮かべている閻魔に対して、女神はある種場違いともいえるような提案を述べる。

 その提案に閻魔はあきれているのやら、はたまた怒っているのやら判別できない微妙な表情を浮かべる。


「……私は閻魔です。役職に就くに際して、日計六花(りっか)という名を捨てたました。それは私もあなたも同じはずですよ。白夜(びゃくや)千歳(ちとせ)


 白夜千歳。どうやらそれが、女神の本名らしい。

 名前を呼ばれた女神は嬉しそうな表情を浮かべた。


「さすが日計さん。ちゃんと覚えていてくれたのですね」

「えぇ。それはもう。忘れるわけないでしょう? あの子の……向日葵(ひまわり)の仇なのだから」


 閻魔は声のトーンを落とし、女神を睨み付ける。

 女神の何気ない言葉から始まったこの会話は今この状態にかかわっている人物たちの名前をどんどんと明らかにしていく。

 今まで女神としか名乗っていなかった彼女には白夜千歳という名前があり、閻魔には日計六花という名前があった。そして、実は“あの子”の正体は一緒に写っているひまわりでしたというオチがない限り、向日葵という名前なのだろう。


 こんな状況にありながらボクの興味は新しく知ったことに対して……さらに言えば、もっと知りたいという欲求が僅かながらに生まれ始めていた。

 それは、閻魔ならわかるかもしれない自分の死因に対してなのかもしれないし、見ての通り目の前の会談の行方もしくは女神たちの過去に対してかもしれない。


 女神と閻魔はしばらく無言で見つめあった後にどちらからともなく視線を外した。


「まぁいいでしょう。なぜ、あなたがそんなことを言い出したかは知りませんが、尋問を続けます」

「まだ聞くことがあるのですか?」

「えぇ。ありますよ」


 不満を口にする女神に対して、閻魔は人の悪そうな笑みを浮かべて対応する。


「それでは最後の質問です。あなたは今回の件について何か不都合な事実はありますでしょうか? あれば、その不都合な事実について語ってください」


 ある意味究極ともいえるその質問は確実に女神を追い詰める。

 ボクはそんな考えにいたり、女神に視線を移動した。


 しかし、彼女はこのような状況であるにも関わらず、絶えず笑顔を浮かべたままのんびりと片手を頬にあてがっていたのだ。


「……そうですね。ここでいう今回というのは転生法違反についてでしょうか? はたまた、“あの子”についてでしょうか?」

「その質問に関してはこちら側の決まりに抵触するのでお答えできません。今回という言葉の解釈について常識的判断をすることを願っています」


 どうやら、閻魔の言葉からして今回をどれに対することかを限定することはできないようである。

 だが、この場で語られているのは“あの子”についての問題と“立山玲に関する転生法違反”だ。閻魔としてはこのうちどちらかの答えを得られれば良いと考えているのだろう。そう思うと最初の茶番もある意味納得がいく。

 立山玲について語りたくなければ、あの子について話してほしい。どちらが女神にとって不都合なのかはわからないが、閻魔の意図はこちらのような気がする。


 しばらくの沈黙を置いた後、女神はいたって落ち着いたような口調で答えを提示した。


「そうですね……あるかないかと言われれば、“不都合な事実などありません”」


 その言葉が出た瞬間。部屋がシンと静けさに包まれた。

 あまりにもあっさりと、そして潔く女神は不都合な事実などないと言い切ったのだ。


 閻魔につられるようにして手鏡に視線を移すが、それは青い光を放っている。すなわち、この発言は真実だということだ。


「なるほど。不都合はないですか……せっかくですから、その不都合ない内容を説明してもらえますか?」

「えぇもちろんですよ。“日計さん”」


 笑顔を浮かべる女神に対して名前を呼ばれた閻魔は不機嫌そうな表情を浮かべた。


「……先ほども言いましたよね? 名前で呼ぶなと」

「えぇ。ですが、私にとっては“不都合がありませんので”。それにあなたも名前で呼ばれたからと言って実害が伴うわけではないでしょう?」


 言いながら女神は勝ち誇ったような笑みを浮かべて、それに対して閻魔は何かにハッと気づいたような様子を見せた後、頭を抱えてふさぎ込んだ。


「わっ私としたことが……」

「えっ? あれ? 何が起こったの?」

「さぁ? (わたくし)にもさっぱり」


 そんな二人の間でボクと蛙葉は首をかしげるばかりだ。

 その様子を見かねたのか、女神は人差し指をピンと立てて解説し始めた。


「まぁこれ自体は簡単なロジックですよ。日計さんが……いえ、六花ちゃんが今回のという表現以上に踏み込めないのは以前より知っていました。これは言葉巧みに誘導尋問をしないようにとして、定められている規則なんですけれど、今回はそれを利用させてもらいました。さて、蛙葉さん。今日この場で上がった話題を“すべて”答えてください」

「……はい。あの子に関する話題、立山玲に関する転生法違反。その他雑談です」

「そう。答えはその雑談の中にあります」


 彼女がそう言って、ボクと蛙葉はそれぞれ雑談の内容を考え始める。

 そして、ほぼ同タイミングで答えに行き当たり手をポンとたたいた。


「そうか。名前呼びをしてもいいのかという話題。それで閻魔様のことを名前で呼んでいるわけですね」


 つまり、そういうことだ。

 “今回”を今回の会談で上がった話題だと解釈し、その中の一つである名前呼びについて不都合はないと答えた。

 つまり、女神はうそをついていないということになる。


「まぁでも、私としてもこのことをうやむやにはしたくないですし、あの子のところに行って話をしましょうか」


 ボクたちが答えにたどり着いたのを見届けた女神は、閻魔の横に座ってそう語りかけた。

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