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額面通りの神様転生  作者: 白波
第四章 閻魔と女神
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閻魔との対面をするために

「さて、さっそく本題から入りましょうか」


 女神とボクが座るなり、閻魔はすぐに口を開く。


「いきなり本題とは……少しは客人をもてなすという気持ちはないのですか?」


 その態度に女神は不快感を露にする。

 しかし、閻魔からすればそのようなことはお構いなしのようで彼女は表情を崩さない。


「私はあなたをもてなす気はありません。あぁそれと……私が用事があるのは女神。あなただけではありません。レイさん。あなたにも用事があります」


 閻魔の言葉にボクは思わず首をかしげてしまった。

 昨日の一件で来たのだから、女神に言いたいことがあるのは納得できるが、ボクへの用というのはなんなのだろうか?

 そんなことを考えている横で女神は見舞いのためにと用意していたのであろう菓子を取り出した。というか、いつ買ったのだろうか? 少なくとも、家を出てからここにたどり着くまで何かを購入していたような覚えはない。


「つまらないものですけれどもお見舞いの品です」


 “地獄激辛ハバネロクッキー”と書かれたそれの包装紙は全体的に真っ赤で、黒い窯と真っ赤な鬼が描かれている。

 閻魔はそれを見ると、満足げな表情でそれを受け取った。


「覚えていたのですね。私の好み」

「そう簡単に忘れませんよ。あなたの好みもあの子の好みも……」

「……ここでその話題を出すということは、あなたもあの子のことについて話したいというわけですか」


 包装紙を解きながら閻魔は不敵な笑みを浮かべる。

 その様子を見る限り、どうやら閻魔も“あの子”とやらについて話したかったようだ。


「えぇ。そろそろ決着をつけたいと思いまして……」


 そんな閻魔に対して、女神もまた不敵な笑みを浮かべて退治する。


「くすっ閻魔を前にしてそう来ますか……やはり、あなたは変わらない。どれだけ表面をつくろったところで根本は変わらないモノですね。ヒトも神も……」

「えぇ。だからこそ、心の中でも読まない限りはその表層の下に隠れてる本心など見ることはできません。ですが、今日こそはあなたの本心を引っ張り出して見せます」

「それはこちらのセリフです。せいぜい余分な情報を口にして墓穴を掘らないように気を付けてください」


 二人の間に不穏な空気が流れる中、唯一状況をまともに理解していないボクはその中で両者の様子をうかがうことしかできない。

 おそらく、周りから見ればボクはものすごく居心地の悪そうに見えるだろう。


 そんな空気の中、閻魔が口を開く。


「さて、あなたが二人で来たので私だけがひとりというのも何とも不公平です。というわけでこちら側からもゲストに来ていただきましょうか……蛙葉(かえるば)。入りなさい」

「失礼します」


 女神が声をかけると同時に大きな鎌を持ち、黒い衣装に身を包んだ青年が姿を現す。

 全身黒装束に大きな鎌という姿はまさに死神と形容するのにふさわしい格好だが、彼がかぶっている枯葉色の蛙の形をした帽子が何とも言えないような違和感を放っている。


「閻魔庁輪廻転生管理担当の蛙葉です。以後お見知りおきを」


 彼は鎌を部屋の壁に立てかけて閻魔の横にたつ。

 そんな彼の姿を見た女神は「ほぅ」と声を上げた。


「なるほど、輪廻転生担当を連れてきましたか……どうやら、あの子のことだけではなく、転生についても議論をするおつもりのようですね」

「もちろんです。でなければ、蛙葉を連れてきたりはしません」

「それはそうでしょうね。ただ単に同席されるのなら、ただの死神でも構わないでしょうから……」

「さて、全員そろったところで今度こそ本題から入りましょうか。蛙葉」

「はっ」


 閻魔の指示で蛙葉が黒服の懐から紙を取り出して、それを机の上に広げた。

 A4サイズのその書類には何やら複雑な文章が並んでおり、一番下に誰かの署名とみられるものもある。


「さて、そういうわけでこれの決着。そろそろ始めましょうか。あの子を葬り去ったこの計画の清算をしていただきます」

「……技術の発展というのは常に危険が伴い、多少の犠牲は発生するモノです。その尊い犠牲の上に現在の転生庁のシステムは立っています。それにあの子はちゃんと生きているではないですか。何かご不満でも?」


 ここにきて、女神はいかにも人の悪そうな笑みを浮かべる。

 それが閻魔の感情を逆なでしたのか、彼女は勢いよく立ち上がり、座っている女神の胸元をつかんだ。


「……あの子が生きている? ふざけるな。あれが……あんなのがあの子だと……私は認めません!」

「認めるも何も、あぁでもしなければ今頃あの子はこの世に存在していませんよ。確かに死にかけていたあの子を転生システムのテスト運用に使ったことについては謝罪しましょう。ですが、私は間違ったことはしていないと思います」

「その態度がふざけているのだと言っているんだ!」

「閻魔様落ち着いてください」


 先ほどとは打って変わり、急激に怒りをあらわにした閻魔に蛙葉が声をかける。


「蛙葉! 下がっていろ!」

「閻魔様。このままでは話し合えることも話し合えません。ここはいったん落ち着いてください」

「……わかった」


 蛙葉の説得に応じて、閻魔はあっさりと引き下がる。

 その様子を見ていると、失礼ながらただの茶番を見ているような感覚を覚えてしまう。


 女神が挑発すれば、閻魔は簡単に乗ってしまうし、蛙葉が止めに入ればあっさりと引き下がる。

 まるで自分だけを置いてこの世界という舞台が進行しているようでとても気持ちが悪い。


 そんな心情を察したのか知らないが、蛙葉がこちらにやってきてこっそりと耳打ちをする。


「……立山様。しばらくお待ちください。これは形式的なものですので……お二方とも“あの子”の問題については解決したいところなのです。しかし、普通に片づけられるようなモノではないので“形式的”な対談を設けているのです」


 あっさりと茶番であると明かしてしまった蛙葉は涼しい顔で閻魔の横に戻る。

 何があったのか知らないが、この茶番をする意味というのはいまいち理解できない。


 だが、先日の女神のことばもあるのでとりあえず、状況だけでもなんとか把握しようとボクは必死に彼女たちの議論に耳を傾けた。


 どうやら、蛙葉に耳打ちされていた間も議論はとどまることなく進行していたようでそれはさらに白熱している。茶番だけど……


「現に私はほぼ毎日あの子の下へ赴いています。それにあたらしい名前はあの子にぴったりじゃないですか」

「何がぴったりか! あの子が男に囲まれて……」

「女の人もいるでしょう? 何かご不満ですか?」

「不満しかありません! あなたがあんな実験をしたからあの子はあんな姿に!」

「あれは単なる事故です。故意ではありません」

「たとえ事故でも、あんな結果は許されない」


 しかし、しばらく目を離したところで結局、議論は平行線のようなのであまり関係なかったかもしれない。

 とりあえず、今までの会話を整理すれば、転生庁を運営するためのシステムづくりの段階で何かしらの事故が起きて、誰かが犠牲になった……いや、何かしらの形で生きてはいるとかそのあたりだということなのだろう。

 その人物というのが写真に写っていたもう一人の人物だと仮定すれば、話は十分に通る。


 そうなると、閻魔がかたくなに現在の転生庁のシステムを否定するのはその悲劇を繰り返したくないからということだろうか?

 それ故に似たような状況の時に限って出張ってきて、それを阻止しようとしている。


 ボクの中ではだんだんと推測が一つの道筋となってつながっていく。


「ですから、これは!」

「はぁやはり、あなたとは議論が熟しませんね! もういいです! この話はこれで終わりにしましょう!」

「えぇ結構です!」


 そんなことを考えている間に子供じみたケンカという茶番は終了したようである。

 そのことについて安堵していると、閻魔は次だといわんばかりにボクの方をにらんだ。


「さて、次に議論するのは立山玲に関する転生法違反に関するお話です。これについては大法廷に持っていくつもりはないのでこのまま議論に入らせていただきます」


 その瞬間、ボクは頭を強くたたかれたような衝撃を受ける。

 それはそうだろう。今まで全く関係のなかったはずの自分に突然、それも何の脈絡もなく話が飛び火してきたのだ。わけがわからない。


「……ばれていましたか。実際問題、あの子についての議論は建前として裏でこの話をしようとかそのあたりの魂胆ですね?」


 しかし、そんな急展開にも女神はいたって冷静な態度で対処する。いや、寧ろ想定していたのかもしれない。

 その上でボクを連れて閻魔庁に来たのだろう。


 “転生法違反”というのが具体的に何か良くわからないが、状況的に考えれば女神がボクを神様として転生させたときの一連の出来事の可能性が高い。


 そんな考えに至って動揺するボクをよそに女神も閻魔も蛙葉も大して表情を変えることなく議論に入る。


「別にあの子のことについて言及するつもりはあまりありませんでした。そもそも、あなたの訪問理由は私の見舞いでしょう? そもそも、このあたりの話をしたくてわざとあんなことをしたのではないですか? そうだとすれば、話が一通り終わった後にじっくりとありがたいお話を聞かせてあげますよ。そうですね。灼熱地獄であったかい緑茶でも飲みながらなんてどうかしら? もちろん、私がいる場所は」


 そう言いながら閻魔は満面の笑みを浮かべる。

 しかし、彼女が笑っているその前でボクはとてつもない寒気を感じ始めていた。

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