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額面通りの神様転生  作者: 白波
第四章 閻魔と女神
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閻魔庁へ行くために

 神界の町の中にあるいつものバス停で降りた後、ボクと女神は別のバスに乗り換えて、閻魔庁へ向かっていた。

 “神拾七系統 閻魔庁”という表示がされているそのバスにはたくさんの人が乗車していて、中には明らかに悪魔っぽい方々の姿も見える。というか、神界というのは何でもありなのだろうか?


「いやはや、こちら方面のバスはバラエティに富んでいますね」


 そんなボクの思考を中断させるように女神が話しかける。


「うん。まぁ……そうだね」


 ‟こちら方面のバスは”と言われたところでボクとしてはこちら方面以外のバスをあまり知らないのでぼんやりとした答えを返す。

 もっとも、神界そのものは風景も住民もバラエティにあふれているように思えるので必要以上におどろいたりはしない。


 ボクは再び窓の外の風景に目を向ける。

 どうやら、このバスは神界のさらに中心部へ向かっているようで周りの建物もこれまで以上に高くなってくる。

 そんな風景を眺めているうちにいくつかのバス停を通り過ぎた。


『次は神界内蔵庁(しんかいくらちょう)長寿町出張所前ちょうじゅまちしゅっちょうじょまえでございます。お降りのお客様はボタンにてお知らせください。また神界中務省しんかいなかつかさしょう方面へお越しのお客様はお乗り換えです。降車後、案内板に従ってご移動ください。まもなく、神界内蔵庁長寿町出張所前に到着いたします』


 車内にそんなアナウンスが流れるなり、すぐに‟ピーンポーン”という軽快な音がなり、多くの乗客が後者の準備を始めた。

 どうやら、このバス停ではたくさんの人が下りるようだ。


 女神もボクも行先は終点の閻魔庁なのでその風景に目をやりながら再び視線を車窓へと移す。


 神界内蔵庁前を出た後は、出発した時に比べてバスは比較的すいていて、徐々に空席も目立つようになってきた。

 ボクは小さく息を吐いて、今度は真っ青な空に視線を移す。


 やがて、その空の色が暗くなり家がまばらになってくる。

 そのころになると、バスの中にはほとんど人がおらず、ボクと女神を除けば悪魔っぽい方々が数人いる程度だ。


『次は終点の閻魔庁前でございます。どなたさまもお忘れ物がないようにご支度願います』


 そのアナウンスが流れると、車内に残っていた僅かな乗客も降車の準備を始める。

 そのころになると、周りに家は全くなくなり、ただただ岩盤がむき出しになっている不毛の大地が続くのみである。

 バスはその後すぐにトンネルに入り、速度を落とす。


 まるで暗闇に吸い込まれていくような真っ暗な下り坂のトンネルはその存在だけで何とも言えない不気味さをはらんでいる。

 そのトンネルを抜けると、急に開けた場所に出た……正確に言えば、ドーム状の巨大な地下空間に出たのだ。


 その空間の中央には神界同様に高層ビルが建っている。


「レイちゃん。この空間の中心に立つあのビルこそ、私たちが目指す場所……閻魔庁です」

「あれがね……なんで神界の役所ってあんなに巨大なんだか……」

「まぁ確かに神界にある省庁の建物が巨大であることは認めざるを得ませんね。転生庁のドームも閻魔庁の高層ビルも……中務省に至っては最上階が見えないほど高いビルですし……これは別に無意味に大きいわけではないのですけれど……」


 女神はそう言いながらドームの天井近くまで伸びるビルに目を向ける。


「ですが、この場所においては高層ビルは閻魔庁ただ一つ。必要以上に目立ってしまっているともいえるかもしれませんね」

「必要以上にってどう考えでも目立ちすぎじゃないの?」

「いえいえ。多少は目立つ方がいいんですよ。権力の誇示というモノがないわけではないですが、実際問題各省庁で働く人の数というのは膨大ですから……一時期は町の景観を損ねるとかで大規模な反対運動が起きたぐらいです。でも、今となってはそう言ったものもきれいに溶け込んでいるのであまり言われませんが……」

「街に溶け込んでるね……」


 確かに神界の町は高層ビルがうまい具合に溶け込んでいたような気もする。

 しかし、全体的に低い建物が多く、薄暗いこのドームの中において閻魔庁の高層ビルが異様な様相を呈しているように見える。

 地中にある町はその高層ビルを中心に放射線状に広がっていて、四方に伸びた大通りとその間を血管のように結ぶ何本もの細い道で構成されている。

 建物はほとんどが平屋建てなのだが、女神がいうにはほとんどの家には地下室があるとのことだ。


 そうしている間にバスは地表に到達し、いくつかのバス停を通過する。

 先ほどのアナウンスで次は終点だと言っていたので、このあたりのバス停はすべて通過なのだろう。


 日本で言えば、片側二車線の道路といった具合のその道路にはたくさんの人が溢れ、中には悪魔のような容姿をした人や大きな鎌を持った黒装束の、人の姿もある。

 そのあたり、ここが閻魔庁の膝元であり、地獄にもっとも近い場所だと実感させられる。


 バスは人が溢れる大通りを慎重に進み、町の中心部へ向かう。


 まわりの建物は平屋ばかりで二階以上の建物はあまり見受けられない。

 中には大名屋敷のような家もあるのだが、ほとんどは小さな家か長屋だ。

 バスの進行方向に見えるビルと天井を覆う岩盤がなければ、過去にタイムスリップしたと言われても納得の行くような風景だ。


「後どれくらいでつくの?」

「そうですね……今日は道が混んでいる上に少々遠回りをしているようなので時間がかかるかもしれません」

「そうなんだ」


 バスに乗っている感覚ではこの町に入ってから、ずっとまっすぐ進んでいるので遠回りをしたとすれば、あのトンネルの中だろうか?

 あのトンネルはかなり曲がりくねっていたし、いくつかの道が分岐しているのも確認できたからそこ以外は考えづらい。

 現にトンネルに入る前、降りる支度をしていた乗客たちは再び席についている。


「まったく、なんでこんなときに限って正規のルートで行かないんでしょうかね」


 女神は独り言をいうようにポツリとつぶやいた。




 *




 あの後、バスは十分ほどの時間をかけて閻魔庁前のバス停に到着した。

 運転手に聞いたところ、バスが迂回した理由は普段通行しているトンネルが緊急の補修工事で通れなくなったとのことだ。


 まぁそればかりは仕方ないので、ボクと女神はそれで納得して閻魔庁のビルに入る。

 中に入ると、白を基調とした大きなエントランスホールがあり、受付嬢が笑顔で出迎える。



女神は建物に入ると、まっすぐ、受け付けに向かう。


「閻魔庁へようこそ」

「どうも。閻魔様に用事があるのだけど」

「約束はありますか?」

「ありません」


 女神が受付嬢と話をしているのを横目に見ながら、ボクは閻魔庁のホールを見て回る。

 閻魔庁のホールは椅子や机、調度品に至るまで白で統一されていて、転生庁の建物と似たような印象を受ける。 

 ただ、転生庁と大きく異なるのは、受付の上にある巨大な閻魔の肖像画だろうか?


「レイちゃん。いきますよ!」


 女神に呼ばれて、ボクは彼女の方へと戻る。

 彼女はエレベーターの前で待っていて、ボクが行くとタイミングを計っていたかのように扉が開く。


 女神はエレベーターの中に入ると、最上階である四拾四階のボタンを押すと、扉が閉まりエレベーターは静かに上昇を始めた。


「それにしても44階建てってそんなに大きい必要あるの?」

「さぁどうでしょうか? でも、転生庁だってあのドームの横に建っている本庁舎は40階建てですし、途中でバス停があった神界内蔵庁長寿町出張所は45階建て、神界中務省本庁舎に至っては三桁で収まらないとまで言われています。ですから、各省庁の本庁舎という観点で見ればあまり高い方ではないということもできます」

「そうなんだ……」


 三桁で収まらないということは要するに1000階以上はあるということだろう。

 少なくとも、日本で……いや、地球においてそんな高層建築を見たことないし、神界の町を見渡した時もそれほどまでに極端に高いビルなど見なかった気がする。

 もっとも、神界自体かなり広いので閻魔庁のようにあの町に建物がないという可能性もあるし、町がほかにないとは限らない。


 そんなことを考えている間にエレベーターは最上階に到達し、扉が開く。


『四拾四階でございます』


 女性の声のアナウンスに促されるようにして、ボクと女神はエレベーターから降りる。


 そこから先は小さなエレベーターホールと一階とは打って変わって薄暗い廊下が伸びている。

 その廊下をずっと先の方まで進むと、ようやく閻魔が待っているのであろう‟執務室”と書かれた扉の前にと着した。

 女神はその扉の前で小さく深呼吸をして扉をノックする。


「入ってください」


 おそらく、受付からの連絡で来客者を把握していたのだろう。

 こちらが名乗るより前に中から声がかかる。


「失礼します」


 女神は一言声をかけてから扉を開いて中に入る。

 ボクもそれに続くような形で扉をくぐった。


「……お待ちしていました。そろそろ来るころだと思っていました」


 薄暗い廊下よりもさらに暗い空間。

 照明が消され、部屋の中にあるいくつものモニターだけが不気味に光っているその部屋の一番奥でその人物は……閻魔は立っていた。


「どうぞ、イスにおかけください」


 彼女は笑顔で室内に入るように促し、ボクと女神はそれに従って部屋の中へと入って行った。

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